航空分野の飲酒基準の対象範囲を拡大し、更に厳しくなる模様

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国土交通省は、一連の航空会社における飲酒に係る不適切な事案を受け、昨年11月20日に「航空従事者の飲酒基準に関する検討会」を設置し、まずは操縦士の飲酒基準について検討を進め、昨年12月25日に操縦士の飲酒基準ついて「中間とりまとめ」を行い、本年1月31日に操縦士の飲酒基準を制改定しました。

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航空分野の操縦士に係る飲酒基準が厳しくなりました。 一連の航空会社における飲酒事案を受け、昨年12月25日に公表した航空従事者の飲酒基準に関する検討会における「中間とりまとめ」を踏まえ、航空法に基づく操縦士の飲酒...

それ以降、同検討会において、操縦士以外の客室乗務員及び整備従事者等に関する飲酒基準についても検討が進められ、その内容がとりまとめられました。

「航空従事者の飲酒に関する検討会」とりまとめ

1 航空従事者の飲酒基準の内容

旅客等を輸送する航空運送事業者については高いレベルの安全運航が求 められており、その責任の重大性をふまえ、厳格な飲酒対策が必要である。
アルコールは微量であっても、人の注意力の低下や業務の正確性などに 影響することが知られており、またその日の体調や個人の体質によりその 度合いも異なる特性をもつ。
このため、航空運送サービスを提供する者のうち「瞬時に正確な判断・行 動が求められる業務を実施する者」であって、その者の「単独の判断・行動 により航空機の運航に影響を与える場合」は、その者について「酒気帯び状 態での業務を禁止」とする。

【対象者の拡大】
操縦士、客室乗務員運航前整備※を行う整備従事者操縦士との通信 を行う運航管理従事者 (下線の職員まで対象範囲を拡大)に対し業務前のアルコール検知器による検査を義務化。また、機上で機体の操縦や旅客の避難誘導を行う操縦士及び客室乗務員は乗務後の検査も義務化する。

※航空機の運航前に機体の外部点検、機内点検を行い不具合がある場合は修理 等を実施。時間的な制約がある中で正確な判断が必要

【アルコール検知器による検査の義務化】

「酒気帯び状態での業務を禁止」の場合は、その状態を確実に把握する ために精密な機器によるアルコール検査が必要であることから、上記の対 象者に対し業務前にアルコール検知器※による検査を実施し、検知された 場合には業務を禁止するとともに、実施状況を確認できるよう検査の結果 を記録し保存することを義務付けるべきである。

また、対象者のうち、機上において機体の操縦や旅客誘導など航空機の 運航・旅客の安全に直接影響を与える業務を行う操縦士と客室乗務員に対しては、業務前の飲酒禁止期間を設け酒気帯び状態での飛行勤務について 厳格に規制するとともに、一連の乗務前後のアルコール検査を義務づけ、業務中における飲酒行為についても抑制を図るべきである。

なお、飛行勤務前に禁止する飲酒期間は航空分野において世界的に共通であり、現在の 基準と同様の「8 時間」とすることが適当である。 ただし、運航前整備や運航管理業務について海外の事業者に委託する場 合であっても、原則、国内と同等の規制とするが、外国での法令等により 従業員に対するアルコール検査等を実施できない理由等が示される場合 は、他の同等の方法を可能とする。

アルコール検知器 

  • 機器は一定の呼気量をもとにアルコール濃度を 0.01mg/ℓ単位の数値 で表示できること。
  • 機器が表示する下限値や検知方法(回数等)は、メーカー等が機器の誤 差や口中・空気中のアルコール成分の影響を踏まえ正確にアルコール が検知できると定める値・方法。

2 継続的に飲酒基準を順守するための取組み

飲酒基準を確実かつ継続的に遵守できるよう、航空局及び航空会社等に おいて以下の取組が必要である。

航空局等による取組

① 国内航空会社への対応 

  • 航空局による航空運送事業者の飲酒対策についての重点的な安全監査、 抜き打ちを含むアルコール検査の立ち会いや直接のアルコール検査の実 施。
  • アルコールの危険性、分解速度、操縦への影響、依存症患者への対応方 法等をまとめた「基礎教材」を作成。各社の教官等に対する教育の実施。
  • 個々の事案についての指導監督とともに、航空安全情報分析委員会(年 2 回開催)での議論結果等を踏まえ、監査等を通じて各社の飲酒に関する不 適切事案への対応状況等について指導監督を徹底。

② 外国航空会社への対応 

  • 数値基準は航空法第 70 条に関するものであり、外国航空会 社にも適用され違反した場合には罰則対象となることから、その旨外国 当局・会社へ周知徹底。
  • 航空局職員による立入り検査時に、アルコール検査等もあわせて実施。 外国当局に対し航空局が行う検査について周知・協力を要請。

③ 自家用航空機運航者等への対応 

  • 全ての操縦士に対して 2 年に 1 度義務付けている技能審査時にアルコー ルに関する知識を審査項目に追加するとともに、①に示すアルコール教材 を活用した自家用運航者及び自家用航空機の整備士に対する講習会等を 通じた飲酒に係る安全啓発・周知徹底。
  • 自家用操縦士に対する抜き打ちでのアルコール検査の実施。

航空会社における意識改革等に向けた取組

航空従事者の意識改革

・安全統括管理者の責務として、社内のアルコール対策の統括管理を位置 づけるとともに、これに必要な体制を整備すること。

・操縦士をはじめ今回規制の対象となる航空従事者が担う大勢の命を預か る責任の重大性、社会的に期待される役割や立場等について、教育を定期 的に行い意識改革を行うこと。

・加えて、飲酒に関する事案について厳格な処分を行うとともに、その旨 を周知・徹底すること。

・一方、今回規制の対象となる者に関しては、これまでも高い使命感・厳 しい自己管理のもとで業務に従事することで航空の安全を牽引・実現して いると考えられ、引き続き自ら業務に適した健康状態を適切に管理するよ う努めることが必要である。また、航空運送事業者は引き続きそれぞれの 航空従事者が業務へのモチベーションを維持するよう組織運営に努める ことが必要である。

自社の安全管理体制による飲酒事案への対応

飲酒に関する不適切事案(アルコール検査における不適切事案、検査記 録等)等については、自社の安全管理体制のもと、適切に収集・分析の上 で改善を図る体制とすること。

3 おわりに

本とりまとめは、本邦航空運送事業者において発生した飲酒に係る不適切事 案をきっかけに、海外の動向や他の運送分野を参考に、航空従事者の飲酒基準 に関し検討を進め、国の定める「飲酒基準の考え方」と「継続して基準を遵守 するための取組」を示したものである。

国は示された飲酒基準の考え方に基づき、早急に具体の基準を制定するとと もに、航空運送事業者は基準遵守に向けた体制を早期に整備し運用を開始す る必要がある。なお、具体の基準の制定に当たっては、統一した運用が行われ るよう留意する必要がある。

また、飲酒については規制対象者のみならず、航空業界共通の問題として航 空に携わる全ての人が「自らのこと」として捉え、業界全体でアルコールに関 する知識の共有・啓蒙、意識・風土改革などを継続的に進めていくことが重要 である。

基準の運用が開始された以降も、引き続き国及び航空運送事業者が連携を密 にし、飲酒による不適切事案の撲滅に向けた対策を進めるとともに、飲酒基準 の有効性や運用面での不具合等を検証し、飲酒基準の見直しや更なる改善に 向けた検討を定期的に行う必要がある。

(参考)
航空従事者の飲酒基準について(本文)

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