アルコール・薬物依存症者への介入について

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目次

Ⅰ 介入という「仕事」

助けを求めないアルコール・薬物依存症者をいかに早く、確実に治療・援助に結び付けるかが重要なテーマです。
依存症という病気は「否認」が大きな特徴で、依存症者が自分から治療を持てめてくるのは稀れなことです。そして、依存症は進行性で死に至る病であります。
放っておいてよくなることはなく、病気の進行に手をこまねいているうちに、その人本来の健康な価値観は失われ、自然な感情の動きも失われ、社会生活のための判断力は失われます。
もちろん周囲の人は、問題の進行になんとか歯止めをかけようと、自己流の「介入」を試みますが、飲まず(使わず)にはいられないという依存症のメカニズムがあり、しかも否認の壁は厚く、世間的・常識的な方法でどれだけ言っても歯が立ちません。

アメリカでは1970年代に、画期的なノウハウが開発されました。インタベンション=介入という技法です。底をつくまで待つのではなく、人為的に問題に気づかせることで「底つき」を早め、治療につなげるというものです。

問題に気づかせることを「直面化」と言いますが、これは二つの手段によって行われます。
一つ目は、周囲がイネイブリングをやめること。アルコール・薬物によて生じた問題を尻ぬぐいする人がいなくなり、責任を肩代わりしてもらえなくなると、依存症者は事態の悪化に気づきやすくなります。
二つ目は、事実の指摘です。依存症者はアルコールや薬物の影響課下で起こったことを記憶していなかったり、ゆがんで解釈したり、認めようとしなかったり、過小評価したりします。いわば幻想の中に生きている人に、現実を見てもらう必要があるのです。

介入のノウハウが広まれば、アルコール・薬物依存症の早期治療が可能になります。治療に結び付くのが早ければ早いほど、依存症者が失うものは少なくてすみ、回復もそれだけ容易です。

介入の前提

■ 依存症を「病気」として理解していること
・意志の問題や、人格的な欠陥ではない
・放っておけば進行し、命にかかわる
・否認が特徴である
・家族や周囲の人を巻き込む

■  回復の可能性を信じていること

■ 周囲のイネイブリングや共依存を理解していること

■ 依存症者を大切に思っていること、人間として尊重できること

■ 心からの説得ができること

■ 治療・援助機関と連携がとれること

■ 回復プロセスを理解していること

なぜためらうのか

介入は、文字通り他人の人生に踏み入り、動かそうとする試みです。いったい、そんなことが可能なのでしょうか。私たちには、そんなことをする資格があるのでしょうか。問題を認めない人、助けを求めていない人に、わざわざ苦労して介入する意味がどこにあるのでしょうか。

多くの治療・援助者が「介入」に対してためらいを感じます。そして依存症者の家族も同じためらいを感じるものです。

なぜ、私が?

■ アルコール・薬物の問題に少しでも接したことのある援助者はたいてい、一筋縄ではいかないことを思い知らされた苦い経験をてもっていることでしょう。できれば避けて通りたい、自分から積極的に踏み込みたくはないとかんじるのも自然なことです。

けれど今の日本で、依存症という病気について本当に理解している援助者は多くありません。正しい知識があって初めて介入は可能になります。あなたがその知識をもっている一人だとしたら、あなたがやらなくて誰がやるのでしょうか。

なぜ今の段階で?そこまでひどくなっていないのでは?

■ 依存症という診断は医師の領域ですが、少なくとも飲酒問題によって周囲が困っており、世間的・常識的な対処(忠告・説得・意見・懇願)では歯が立たないのなら、介入は必要です。今のうちに介入すれば、失うものは少なくてすみます。しかも回復は容易です。

■ 飲酒問題こそがこの人の問題の中心なのか、あるいはほかに原因があるとのではと、迷う場合もあります。原則として、いくら他の問題(仕事上のストレス・家族間のあつれき・経済破綻・ギャンブル依存・人間関係の問題など)あったとしても、飲酒問題がン在するのなら、まず断酒が優先です。ただし、他の精神疾患を合併しているなど、断酒以外の専門治療が必要なケースもあります。その意味からも早めに治療の場につなげる必要があるのです。

人の人生にそこまで踏み込んでいいのか?

■ 身近にいる誰かが命にかかわる病気をわずらっているとき、しかもそのことを知らないまま苦しんでいるとき、放っておいてくれと言われて放っておくでしょうか。
介入をためらうのは、依存症が病気だということを心の底からは納得ができず、意志や人格の問題、あるいは本人の嗜好や思想の問題と思っているからではないでしょうか。

「飲んで死ぬなら本望」という病気の言動の奥に隠されて、「一刻も早く助けを必要としている」「心の底ではいきたいと願っている」本来の健康なその人が存在するのを信じることです。チャンスさえあれば必ず回復すると信じることです。たくさんの回復者に会えば、きっと信じられるようになります。

誠実に事実を伝え、気持ちを伝えた上で、その人が回復という選択肢を選ばないとしたら、それはその人の人生かもしれません。やるだけのことをやった上で、最後の選択は本人がするのです。

家族にとって、本人への介入は負担が大きいのでは?

■ 家族を中心とした「チームによる介入」の準備は、言い換えれば家族自身への援助でもあります。そのプロセスを通して、家族は依存症という病気を理解し、自分の気持ちを表現しながら整理し、癒されていくのです。これを支えるのが、援助者の役割です。「問題から手を放す」のは、本人にいっさいかかわらないことを指すわけではありません。問題(依存症という病気)と、その人そのものと分けて考えることなのです。

本人の知らないところで介入の画策をするのは気が咎める

■ その人の周囲に張り巡らされた否認や防衛の壁を越えて、心の深いところまでメッセージを届けるには、周到な準備や工夫が必要です。相手を陥れる計画を練っているわけではないのですから、自信をもってください。

とはいえ、本人にショックを与えることを意図しているわけではありませんから、ことさらウソをついて隠し立てする必要はありません。特に騒ぎ立てて本人を刺激する必要はないと考えてください。

実際には、「何かあるのでは?」という気配が漂っているぐらいが、むしろ自然でしょう。家族は「相談に行ってきた」「家族教室に行ってきた」「家族教室に行った」「自助グループに行った」と本人に正直に話した方がいいし、依存症についての本をさり気なく置いておくなど、段階的にアポローチしていくのが有効です。状況によっては、介入を準備している途中で「今のままだと、いずれこうなる。治療を受けた方がよいのではないか」と話してみます。介入の場では、「いよいよきたな」という覚悟がでてきているほうが成功しやすいものです。

介入なんてそんな大がかりなこと・・・

■ 治療・援助者は、それと意識しなくても、日頃の仕事の中で「介入」を実行しているもの。問題に悩む家族も、介入しては失敗しているのです。介入は、「正式な関係者の会議を繰り返して、完璧な準備をして、全員が本人を待ち構えてここぞとばかりに論を展開する」というものではありません。

例えば、福祉のワーカーが受給者に「大家さんから酔って騒ぐと苦情がきている。あなたの問題はアルコールでは?」と話すも、介入です。廊下で会った担当者どうしが「この間の人、専門病院を紹介したいんだけど・・・」と相談を始めるのも、関係者による介入の準備です。

関係がこわれてしまうのでは?(家族や友人がしばしば感じるためらい)

■ そのリスクはないとは言えません。一時的に事態が悪化したり、関係が悪化することもあります。けれど、リスクを冒すだけの価値はあります。本人に対する感情をきちんと整理した上で介入すれば、リスクは最小限になります。

もともと介入を成功させるためには、本人に怒りをぶつけたり、責め立てて孤立させることは禁物です。逆に、その人をどれだけ大切に思っているか、どれだけ心配しているか、どれだけ必要としているか・・・などの感情を表現することが、否認を解いて気持ちを動かすカギになるのです。

非難の言葉ではなく、たっぷりの愛情と気遣いを受け取ったとしたら、最終的に関係がこわれることはありません。

3つの介入

介入の形によって、効果や注意すべき点が異なります。次の3つのタイプで考えてみましょう。

一対一の介入(一人で介入を行う。)

■ 現状ではかなり一般的 ただし成功率は高くない

家族が一人で「酒をやめて」「治療を受けて」と説得するのも一対一の介入ですが、これも何度も続けては失敗してきたケースも多い。例えば、妻、兄、友人、上司など、多数の人が個々に介入を行っていることもよくある。バラバラな時期、まちまちな方法のため、見当違いで核心に触れることができなかったり、感情的になったり、否認の壁に阻まれたりして、成功しにくい。
それでも、ちょうどよい時期、本人が聞く気になっている状況、正しい知識、愛情と説得力などの条件がそろえば、成功の可能性はある。

■ 「本人に大きな力を及ぼす人」なら、一人でも成功しやすい

本人が特に信頼している人や、人事権を握る職場の上司、福祉のワーカー、内科主治医など、「強力な人」の場合は、一対一の介入でも成功の可能性は高まる。一対一で介入する場合も、一人で問題を抱え込まず、関係者と情報を共有したり、方針を相談するなど、背後にチームが存在することが不可欠。

チームでの介入(2人以上で準備した上で、介入を行う。)

■ 成功しやすいのはなぜか?

・関係者がチームとして方針を統一することで、イネイブリングがなくなる。

・それぞれの体験を集めることで、本人の問題を多面的に把握できる。

・一人で指摘するよりも、数人での方が否認に対抗しやすい。

・本人の反応に振り回されないよう、チームで伝えた方を工夫できる。

・ただし、チームの人数が多すぎると動きにくいため、3~5人がもっともよい。

■ 治療開始後のメリット

・関係者のネットワークができているため、回復が容易になる。

・再飲酒の場合も、チームとして対応できる。

危機介入(危機に陥ったときをとらえて、介入を行う。)

■ 危機はむしろチャンス

依存症には様々な危機がつきもので、内科疾患の悪化、ひどい離脱症状、ケガ、警察沙汰、家族関係の破綻、暴力によるトラブル、失業や左遷、金銭的なトラブル、その他社会的なトラブル・・・。
こうした危機は、むしろチャンスになり、本人が飲酒による事態の悪化に直面しているタイミングをとらえて、介入を行うと成功しやすい。

■ 臨機応変の対応を

チームでの介入を計画中に、緊急事態が起こることもあり、決めてあった手順にとらわれずに、「喉元をすぎない」うちにタイミングよく介入すべきである。場合によっては一対一の介入になることもあり、状況が許せば、駆けつけられる関係者によるチームで介入する。

解説

「初期介入」と「治療介入」

介入をめぐる言葉は、さまざまな意味で使われています。例えば、「初期介入」は広い意味では「相談者の問題解決のため、最初のルを設定して必要な介入を行う」こと。

治療開始をゴールとする介入を「初期介入」、治療開始後の介入を「治療的介入」と呼んで区別しています。なお、単に「介入」という場合はすべて、初期介入をさしています。

「家族介入」

文字通り、家族への介入、あるいは家族を通じての問題への介入をさします。具体的には、相談にきた家族の感情を受け止めた上で、混乱を整理し、依存症に対する正しい知識を伝え、イネイブリングをやめて楽になってもらい、本人への介入に向けてサポートえいくことです。

Ⅱ チームでの介入モデル

介入(インタベンション)は、事実を「突きつけ」たり、本人を「突き放す」ものではありません。米国ではしばしば、インタベンションはインビテーション(お誘い・招待)という言い方をします。本人を尊重しつつ、「大切な人だからこそ、治療という方法を選んでほしい」と、暖かく誘いかける。死ではなく生を選択してほしいという、愛情のこもった誘いです。

こうした介入は、一日ではできません。というのも本人を取り巻く関係者は依存症という病気に巻き込まれて、疲れ果てたり、傷ついていたり、怒りや恨みを感じていたり、混乱していたりするからです。

こうした感情が整理され、治療に結び付けるというゴールが明確になったとき、介入への準備が整うのです。チームでの介入は、本人にとって重要な複数の人からの「治療への暖かい招待」です。関係者の気持ちが「治療に誘う」ことに統一され、それをうまく本人に伝えられるよう、段階をふんで準備をしていくことが有効です。

準備のプロセス

事態の把握とゴール設定

スタートは、治療・援助者のPさんが自らCさんのアルコール問題に気づくか、誰かからPさんのところへCさんについての相談が持ち込まれるかのどちらか。
Pさんは関係者の話を聞くなどして、可能なかぎり事実を集め、事態を整理する。どんな問題が起こっているのか、それによって誰が困っているのか、今までにどんな経過があり、誰からどんあアポローチがあったのか、それはなぜ失敗したのか、現在何をおいても緊急に解決すべき問題はあるか・・・。
その結果、Cさんはアルコール依存症の可能性が強いと判断し、数か月のプランで「Cさんの問題へのチームによる介入」を行うことに。「Cさんを専門治療機関につなげる」というゴールを設定する。

チームづくり

Cさんの関係者をリストアップし、本人を動かすカギとなる人(キーパーソン)は誰か、イネイブラー誰か、情緒的に安定しているのは誰か、特にサポートを必要とするのは誰か、などを考えてみる。
その上で、Cさんの問題への介入チームを編成する。

関係者の教育

チームのメンバー一人一人の感情を整理し、依存症についての正しい知識を伝えイネイブリングについて知ってもらう。Cさんの周囲にいる人がイネイブリングをやめることで、Cさんは飲酒の結果に直面し、痛みを感じることができる。これが介入が成功するための大切な前提となる。
回復が信じられない家族には、自助グループに行って実際に回復している人たちに買ってもらう。関係者がみんな「気づいていながら口をつぐんでいた」状態から抜け出したことを評価しつつ、介入へのためれいや不安を受け止め、具体的な行動へとチームの気持ちを統一していく。

介入のための準備メモをつくる

メンバーそれぞれが、Cさんに何を伝えるかを一緒に整理した上で、メモに書いてきてもらう。そのメモをメンバー全員が読んでおく。ここでは、それぞれが体験した事実に基づいて気持ちを伝えること、問題となっている事実を全員で分かち合うことが大切で、介入場面では緊張したり興奮したりしやすいため、メモを見ながら話すとよい。
できればメモを手紙の形にしてコピーを3部用意し、1部は介入が終わったらCさんに手放し、もう1部は自分でとっておき、最後の1部は治療機関のスタッフに渡して治療に役立ててもらうとよい。介入の当日、都会で出席できないメンバーには手紙を書いてもらって、誰かがその場で読み上げる。

受け入られなかった場合は?

もし、Cさんが提案を受け入れてくれず、あくまで受診を拒否した場合、「自分はどうするか」をメンバーそれぞれに前もって考えてもらう。
おどしはダメ。このまま病気が進行すれば現実的に何が起こるのか、避けられない結論は何かを基本にして気持ちを整理する。

治療機関との連携

Pさんが、Cさんをつなげる治療先のスタッフに連絡をとり、介入後すぐに受診に向かう手配について相談する。
介入チームのうち、Cさんの同居家族を含む特に重要な人に、治療先のスタッフに会いに出かけてもらう。介入チームのメンバーが治療先をあらかじめ訪れ、どんな雰囲気の中でどのような治療が行われているかを知っていれば、自信をもって介入できる。

治療スタッフとの信頼関係ができていると、介入後の治療もスムーズにいきやすいため、メンバーに治療先の家族プログラムへの参加をすすめるとよい。
なお、できれば複数の治療機関と連絡をとってCさんに選択の余地を与えたり、入院・通院の選択ができるようにすると理想的。

介入の場の設定

治療先の初診日や時間帯、Cさんの最近の状況や予定、メンバーの都合を考慮した上で、介入の日時と場所を決める。援助者であるPさん自身が介入場面に立ち合うかどうかを検討し、立ち合わない場合は、メンバーの中から司会者を決めておく。

解説

介入の時間帯について

計画的な介入を行うに当たって、避けるべきなのは、次のような時間帯。
・本人が飲んでいる時間(酔っている時に介入してもムダ)
・飲み始める時間の直前(早く飲みたくてイライラしている)
一日中酒が抜けない状態の人は、早朝など、なるべく酔いがさめているときを選ぶとよい。
治療機関の診察時間も考慮しておくべき。介入が成功したらすぐにその場で受診に向かえる時間設定がベスト。
介入は、「本人が納得するまで何時間でも」と考える必要はない。全員が話し終わるまで、90分程度がめやす。

介入の場所について

場所はCさんの状況によるが、できるだけ中立的な場所が望ましい。
例えば企業内での介入なら、威圧感のある役員室ではなく、健康管理室や会議室がよい。
逆に、Cさんの自宅での介入は現状維持へとひきずられやすく、決心をにぶらせる要素がある。また、電話や来客による中断や、Cさんが「帰ってくれ」と言える立場にあるなど不利な点があることを覚悟しておいたほうがよい。ただし、危機介入やCさんを外に招くのが難しい状況なら、自宅での介入もやむを得ない。その場合Cさんにとって影響力が強い人の参加が望ましいい。

治療・援助者の立ち合いが望ましいケース

・暴力の問題がある
・自殺企図がある
・他の精神疾患を合併している(可能性がある)
・複数の薬物に依存している(可能性がある)
こうしたケースは、援助者が立ち会えない場合でも、介入までのプロセスで注意深いフォローが必要となる。主治医がいるなら、連携が欠かせない。

司会者の人選

介入の場に援助者が立ち合える場合は、司会者を務める。立ち合えない場合は予め司会者役を決めておく。
司会者に最も適任なのは、冷静に状況判断ができ、本人が一目置くような立場の人。司会者として避けるべきなのは、配偶者など感情的にまきこまれやすい立場の人。成人した子どもであっても、親の問題で深く傷ついている人は避けること。

予行演習(リハーサル)

介入の本番に先立って、チームのメンバーに集まってもらい、Pさんの立ち合いのもとで予行演習を行う。
それぞれがメモを読み上げて、話す順序を決める。
誰かがC三役になって、ロールプレイ(場面を設定したやりとり)をしてみるとよい。その中で「もしこんな風に反発されたら?」「途中で席を立ってしまったら?」など、メンバーから不安な点が出てくれば、それについて話し合い、どうするかきめておく。
メンバーそれぞれに介入の場のイメージができたか、不安がほぼ解消されたか、感情的になって本人を責める人はいないか、口ごもって話せなくなる人はいないか、などをチェックし、援助が必要な人には個別にカウンセリングする。

解説

話す順序について

最初に話を始めるのは、チームの中でもっとも冷静で客観的な立場をとれる人にするとうまくいく。というのも本人の抵抗や反論が予想されるため。「オレはそんなことをしていない」「上手に飲める」などと言われたときに、口ごもって引き下がったり、論争に巻き込まれたりしないことが肝心である。
本人が反発したり怒鳴ったりした場合は、それに反応しないこと。議論は避けること。「まず、私たちの話を聞いてください」と穏やかに言って、全員が静かに待ち、本人が黙ったら、話を続ける。
何人かが話していくにつれ、反論も少なくなり、うなだれたり遠くを見るなど、話しに耳を傾ける態度が出てくるもの。だから、「揺らがない人」を前半に、「感情に訴えられる人」を後半にもってくるのがコツ。特に、子どもは一番最後にする。

席順について

本人の部屋の一番奥にするなど、中座しにくい位置に。
援助者が同席する場合は、本人のすぐ横がよい。話を聞いている時の感情の動きなどが観察しやすいため。
本人の正面には、上司や親戚など本人への影響力が大きい人が座るとよい。

司会者の役割

・集まった目的を、なるべく自然に告げる
・話す人を指名する
・混乱に対処する(特に、本人を責め立てたり、怒りをぶつけたり、追い詰める雰囲気にならないよう、気を配る)
・全員の気持ちを代表して、受診をすすめる
・本人の最終的な選択を確認する

感情表現

介入の場では、怒りの感情を表現してはいけない。
その他の感情は、自由に表現してよい。

いよいよ介入へ

介入の場にCさんを招く場合もあれば、メンバーがCさんのもとへ出かける場合もある。招くなら、誰がその役割をするのか決めておく。
家族が「一緒に行きましょう」と話してもよいが、Cさんにとって断りにくい立場の人(上司・主治医・Cさんが頼りにしている親戚など)に招待役をやってもらうのがベスト。できれば、招待役が自宅までCさんを迎えに行くとよい。
何のために来て欲しいのかは、漠然と話しておく。ウソをつく必要はないが、「あなたに酒をやめさせるため」「病院にいってもらうため」などとは言わない。「あなたも関係していることで、大事な相談があるからぜひ来てほしい」という程度にする。

介入場面

①初対面の援助者が司会を務める場合は、まず自己紹介をしてから。司会者は初めに誰かが困て相談にきたかなど、このような場をもつに至ったいきさつを手短に正直に述べる。
「この場が、あなたにとって非常に不安な場であるのを理解している」と本人の気持ちにそって話をすすめながら。「この集まりはあなたを裁いたり責めたりするためではない」ことや、「私たちの考えを強制するためではない」こと、「あなたを大切に思っている人たちがここに集まっている」ことを話し、「あなたご自身が発言する機会はあとで必ずつくりますので、とにかくまずは、ここに集まっている皆さんの話を聞いてくださいませんか」と言って、最初に話す人を指名する。

②司会者の指名に従って、メンバー全員が順番に、メモした内容をCさんに向かって話す。心をこめて、Cさんの方をを見て、直接ありかけること。

③Cさんが「いったいどういうつもりか」「自分にはそのような問題はない。」などの抵抗を示したら、司会者が「とにかく最後まで話をきいてくださいませんか」とおだやかにしむける。

④欠席者の手紙を誰かが読み上げる。

⓹司会者が、「ここにいる全員があなたのことを心配している」こと、「今起きている問題はすべて飲酒に関係している」こと、「依存症という病気の可能性がある」ことを話す。ただし介入の場では、「アルコール依存症」「薬物依存症」と断定するのは避けること。

⑥専門の治療機関に受診してみるようすすめる。援助者が司会を務めているなら、依存症の治療プログラムや、入院の可能性などについてもある程度話しておくとよい。援助者が同席しない場合は、「とにかく診察を受けてほしい」と話す。

Cさんが受診を受け入れたら、全員がその決断を歓迎し、握手したり、肩を抱くなど、喜びを表現し、はげます。

Cさんが受診をしぶった場合

①Cさんが受診をしぶったら、不安な点はどこか(依存症への偏見・精神科への抵抗・治療への不安・職を失う事への不安など)を聞いて、適切な人が回答する。援助者が司会を務めている場合は、依存症という病気や治療についてのCさんの疑問にその場で答えられるが、援助者が同席しない介入場面では、「とにかく診察を受けて、疑問なことは自分で医師に確かめてほしい」と言えばよい。家族が「この病気に行ってみた私の印象はこうだった」と話すのも効果的。

②再度、受診をすすめる。

③Cさんが依然として拒否しているときは、メンバーそれぞれが「このままの事態が続いたら、自分はどうするか」(最終結論)を述べる。おどしではなく、現状から出たぎりぎりの選択であることを伝え、誰もそれが現実になるのを望んでいないことを伝え、再度受診をすすめる。

④それでも拒否の場合は、残念な気持ちと、もう一度考えるための猶予期間(1晩、2~3日、1週間)をおくこと、それでも気持ちが変わらない場合は最終結論(③で述べたこと)が出てしまうことを告げ、その場をしめる。

⓹約束した時期をおき、再度アプローチして、受診をすすめる。

⑥それでも拒否の場合は、最終結論を実行する。


Cさんが受診を受け入れたら、全員がその決断を歓迎し、握手したり、肩を抱くなど、喜びを表現し、はげます。

介入が成功したら

きちんと準備して心からの介入を行えば、かなりの率で成功するものです。というのも、依存症の人は自分でも「どうしてこんなことになってしまうのか」「情けない」「またやってしまった」と内心感じているものだからです。その不安や後悔に直面しないですむように、強い否認によって自分を守っているのです。攻撃したり責めたりすると否認は強まりますが、「あなたを助ける手段がある」ことを暖かく提案すれば、その言葉は否認を超えて届きやすいのです。

本人が受診を受け入れたら、メンバーは心から本人の決断を歓迎し、回復を期待してること、信じていることを伝えます。

ここで大切なのは、一刻も早く治療の場に行くこと。
いったん治療をOKしても、たいていの場合はしぶしぶという心境です。時間があってば「やっぱり行きたくない」「あのときはワナにはまったが、オレはアル中なんかじゃないぞ」と心が揺れるもの。介入を行ったメンバーも、本人が実際に受診するまでの間、ハラハラし通しになります。

そこでできれば、介入の場から直接、病院やクリニックなどの治療機関に向かえるように設定しておくこと。家族は必ず同行します。他にも同行できるメンバーがいれば、一緒に行くとよいでしょう。すぐに入院する場合に備えて、荷物をととのえて介入の場に用意しておくことも忘れずに。

診察の受付が午前中のみ、という治療機関も多いため、きちんと調べた上で、介入の時間を早めにするなどの工夫も必要です。どうしても翌日の診察になってしまう場合は、例えば介入の場に同席した親戚に家に泊まってもらうなどの手段をとると、家族は心強いでしょう。「治療を受けるのはいいが、明日は絶対はずせない会議があるからダメ」などということにならないよう、本人の予定をくしておくと安心です。

どうしても受診が数日後になってしまう場合は、その場で本人に受診予約の電話を入れてもらうなど、治療承諾を具体的な行動にしておきましょう。

介入チームの条件

チームで介入を行うには、「誰をチームに入れるか」が大きなポイントであり、次の条件を満たす人が、介入チームのメンバーとして理想的です。

・ 本人のことを大切に思い、心配している人、あるいは必要としている人
・ 本にととって重要な存在、あるいは本人が一目置いている人
・ 本人の飲酒問題で困っており、何が起こったか具体的に指摘できる人
・ 本人の回復を心から願っている人

コラム

子どもをチームに加えるか?

介入の場で、小さな子どもが「お父さん」「お母さん」のアルコール・薬物問題について自分の気持ちを語ることは、大きなインパクトです。頑なになっている本人の心を動かす力がある。たとえば・・・

Kさんは、いくら治療をすすめられても首を縦に振らず、「酒を減らせばよいのでしょう」などと繰り返すばかりだった。今回はダメだったかとみんながあきらめ、司会者は「わかりました。減らすようにやってみてください。もしできなかったら、そのときは治療を受けてくれますか?」と、その場を終わらせようとした。

ところがそこで、予定外のハプニング。小学生の男の子が泣き出してしまい、「お父さん!こんなに言ってもまだ飲むの!」とこぶしを握って胸にすがりついた。Kさんは、じっと堅くなって考え込んでいたが、「わかった、わかったよ。お父さんが悪かった」・・・。(注:介入の場では本来、怒りの表現はタブー。しかしこの例では、思い余った子どもの感情表現が父親の心を動かした。)

こんなことも起こる一方、大人の目からみて「子どもをそんなことに巻き込むべきではない」「子どもの力を当てにするなんて」という考え方も。

どちらがよいのだろう?

実際は、子どもは大人が考えるよりもたくさんのことに気づいている。そして、さまざまな感情を味わっている。悲しみ、さびしさ、不安、怒り・・・。介入チームに加わることは、むしろそうした感情をおさえこまずに整理するチャンスとなる。問題を隠さずに皆で話し合い、解決していく体験ができる。

ただし、自分の気持ちを言葉で伝えられる年齢になっていることが条件。もっと小さい子どもの場合は、適切な機会に、子どもが理解できるような表現で、「お父さん(お母さん)は病気だから、よくなるようにみんなで応援している」ことを伝えておく。

治療の場との連携

介入に当たっては、治療の場との連絡をきちんととっておくことが欠かせません。
これには次のような意味があります。

  1. 介入後、スムーズに治療の場に出かけれれる
  2. 治療の場所や内容が予めわかっていれば、介入を行うメンバーも安心
  3. 治療の場所や内容があらかじめわかっていれば、確信を持って進められる
  4. 治療の場での受け入れ体制ができる

特に、4は重要です。そして、つい忘れがちなポイントでもあります。
治療機関によって、治療開始に当たっての方針は様々です。
ようやく介入場面にこぎつけ、なんとか受診となったものの、診察室に入った本人が強い否認を示して「同期づけができていない」と返されてしまったり、「まだ依存症というほどではない」と医師に言われて「飲めるお墨付き」をもらったと解釈してしまう場合もあります。

中には、「こんな患者さんが近いうちに受診するのでよろしく」と治療スタッフに電話で伝えてあったのに、「きちんとして現れたから、どの人だと思わなかった」ために節酒指導をしてしまったというケースもあるのです。

介入に成功し、本人が受診を承諾したとはいっても、動機付けのレベルはさまざまで、いざ診察となったら強く否認したり、抵抗することもしばしばです。意識的でなくとも、「医者」の前に出ると体裁をつくろうかとする傾向が多くの人にことを忘れずに。

せっかくの苦労がここで振り出しに戻らないために、次のことに気配りしましょう

  • いつ受診するかについて、治療機関と日時をきちんと決めておく
  • できれば診察に同行する
  • 家族がいる場合は必ず同行してもらう
  • その人の状況について治療機関に伝える時は、行き違いを防ぐため、電話でなく直接会って伝えるか、文書(紹介状)で伝える
  • 家族に、前もって治療機関の家族教室などに参加してもらう

せっかく介入を準備したケースですから、治療者側にはきめ細かく注意深い対応を望みたいものです。そのためには、普段から治療スタッフとの関係づくりをしておくことです。「電話で話したことがある」関係よりも、ケース検討会や地域の集まりで「何度も顔を合わせている」関係や、「ケースについて協力したことがある」関係が、いざというときに役に立つもの。

ですから積極的に関係機関のスタッフと交流すうることをすすめます。それが介入を成功させるためのあなたの「資源」となるのです。

臨機応変が不可欠

介入の準備から受診までの手順をモデルケースとしてあげましたが、現実はマニュアルどおりにはいかないことを忘れないでください。そして、必ずしもマニュアルどおりのやり方にこだわる必要はないのです。介入は、機械を相手にするわけでなく、本人も関係者もさまざまな反応を返す「人間」だからです。

介入をリードする治療・援助者は、次のような可能性について考えておくとよいでしょう。

介入を準備している途中で、本人の状況が急変した

準備した手順にとらわれずに、「危機介入」に切り替えます。危機介入については、あとの項でくわしく述べます。

介入を準備している途中で、何かのきっかけで本人が治療へ

その後の経過をフォローし、治療にうまく乗っているかどうかで、いくつかの方法があります。
・とりあえず順調なら、介入のために用意したメモうを、「何かの時に役立てて」と家族に大切に保管しておいてもらう。
・介入のために用意したメモや経過を整理したものを、信頼できる治療スタッフに渡し、治療に役立ててもらう。
・「通院は始めたが、飲んだりやめたりの状態」「しぶしぶ通っている」などの場合は、治療機関と相談のうえ、改めて介入を行う。

介入の場に、酔って現れた

酔っている状態では、介入はできません。司会者が次のように話すとよいでしょう。「今日はとても大切な話をしたかったのですが、飲んでいらしているので、それができないのが残念です。お酒が入っていない状態でみなさんでお話ししたいのですが、協力していただけませんか。いつだったらよいでしょうか。」

援助者が司会を務めている場合、飲酒・薬物問題が話し合いのテーマだということが明らかになるでしょう。そこで、介入チームのメンバーが解散したあと、一対一で本人に声をかけておくと次の機会への布石になります。

「飲まなければ来られなかったお気持ちもわかります。でも、あなたを責めたり何かを強制したりしようというわけではありません。みなさんが心からあなたのことを心配して、愛情をもって集まっているのです。

介入の途中で、本人が退席した

こうした感情の揺れは、否認がとけてきた証拠です。
私たちは、自分たちの言葉によって相手が泣いたり、頭を抱えたりなど、大きなショックを受けているのを目にすると、つい「そこまで深刻に受け取らなくても」「そこまで言う気はなかった」などと慰めたくなるもの。

また、いつも勢いのよい人がじっと下を向いて押し黙っているのを見ると、「いつも勢いのよい人がじっと下を向いて押し黙っているのを見ると、「いつもの調子はどうしたの?」「もっと元気を出して」と声をかけたくなるなど、落ち着かない気分になるかもしれない。けれど、介入の場面ではチームとして伝えたいことをひくり返すような発言や態度は避けることが必要です。本人が事態の深刻さに気付き、ショックを受け止めるのを暖かく見守りましょう。

ただし、あまりにショックがひどそうだったり、「そんなに迷惑をかけていたとは、新でお詫びするしかない。」など自殺をほのめかすような発言があった場合は、受診に至るまで決して一人にせず、必ず誰かが付き添っているようにしましょう。

チャンスをとらえて危機介入

本人が危機的状況に陥ったときは、みしろ絶好のチャンスです。そんなときこそ、本人が飲酒による痛みに直面しているから、ショックが薄れ、痛みを感じなくなる前に、タイミングよく「危機介入」することが大切です。

危機的状況とは、たとえば、次のようなものをさします。

・内科入院
・離脱症状
・ケガ
・警察沙汰
・家族関係の破綻(別居・離婚など)
・暴力によるトラブル
・自殺未遂
・失業/左遷
・金銭的なトラブル
・その他、社会的なトラブル

身体状態の悪化やケガで生命の危険がある場合は別にして、それ以外について周囲が安易に助けの手をさしのべるべきではありません。
飲酒によって引き起こされた事態にきちんと直面してもらった上で、危機介入を行います。

危機介入は、当然のことなのでマニュアルどおり行えるものではありません。
一対一の介入になる場合もあるでしょうが、できれば一人で動かず、チームで連絡をとること。
誰か駆けつけられる人がいれば、介入に同席してもらいます。

危機介入の例を、挙げておきます。

  • 介入を準備中に、食道静脈瘤破裂で救急病院に入院。家族は介入をサポートしている援助者に電話で指示をあおいだ。援助者は専門病院スタッフと内科担当医に連絡をとる。ひどい離脱症状が出て困っていた内科医は、協力を約束。本人の状態が安定したところで家族二人がベッドサイドで介入を行い、入院中から専門医受診にこぎつけた。
  • 連続飲酒の末、体が酒を受け付けなくなり、それどころか水も飲めない状態に。家族が「今度こそ内科ではなく専門のところへ」と説得、体がつらい本人は楽になりたい一心で入院を承諾。
  • 酔って階段から転げ落ちて頭にケガ。包帯を巻いて出社したところに、家族から連絡を受けた上司と健康管理職が待ち構えていて介入。「専門のクリニックに行こう。そうでなければ今日は帰りたまえ。明日からも出社の必要はない。仕事ができる状態ではないから」と言われて、受診を承諾、家族も駆けつけてクリニックに向かう。
  • 薬物所持で逮捕され、親は保釈金を出さずにリハビリ施設のパンフを差し入れた。初版のため執行猶予となり、そのまま家に戻らずにリハビリ施設に入所。
  • 暴力のため、妻が子どもを連れて家を出た。妻は本人の状態を、保健師と実兄に報告。一人残された夫が連続飲酒の末つらい状態になったところへ、妻の兄が保健師とともに訪問し、専門病院への入院を説得。妻の気持ちを伝えて「断酒をすれば、家族も帰ってくる可能性がある」と話し、病院へ。連絡をもらった妻もすぐに病院へ向かった。
解説

説得に欠かせない4つのポイント
危機介入の場合でも、単に「治療を受けて」だけでなく、次の4つのポイントを伝えるようにすると成功しやすい。

■ 暖かい感情の表現
「あなたのことを心配している・気遣っている・大切に思っている・必要としている」

■ 問題の具体的な指摘
飲酒が原因で、いつ、どこで、どんな問題が起こったのか

■ 問題解決への選択肢
「助けを得られる場がある」

■ 決意を促す
「さあ行こう」

介入が失敗したとき

上手に介入を行ったとしても、本人の否認が強く、治療を受けることを納得してくれないこともあります。中には捨て台詞を吐いて席を立ってしまう人もいます。

参加者が感情的になって本人を責めてしまうなど、介入自体がうまくいかない場合もあります。けえども「失敗」も、成功へ向けての一歩なのです。

■ 介入後のチーム・ミーティング

介入が成功した場合も、成功しなかった場合も、事後にチームのミーティングをもつとよいでしょう。ミーティングでは、介入をしてどんな気持ちか、今後についてどう考えるかなどをそれぞれが話します。介入は、たいへんなエネルギーのいる作業です。「こんなことをしてよかったのだろうか」といった不安や自責感が残る場合もあるので、その不安を吐き出し、メンバーの間で整理することは、とても役立ちます。

お互いによくやった点を評価しあうことです。ことに、介入が「失敗」に終わった場合、関係者はがっかりしています。次のステップへ向けての気持ちの整理が必要です。

次のようなことがかったか、ふりかえってみます

  • アルコール・薬物の問題についての指摘があいまいだった
  • 参加者が、依存症は「性格や意志の問題」だと誤解したままだった
  • 本人にとってもっとも重要な人(配偶者など)が参加しなかった
  • 本人への愛情や気遣いをうまく示せなかった
  • 本人を責めたり、裁いたり、怒りをぶつけてしまった
  • 本人のたくみな言いわけに言いくるめられてしまった
  • 本人を刺激して暴力を誘発してしまった
  • 周囲のイネイブリングが続いていた
  • 受診というゴールをきちっと示せなかった
  • 治療先の手配をしていなかった
  • 治療先の受け入れ体制ができていなかった
  • 受診を拒否した場合の対応を示せなかった

よくあるのは、「本人を孤立させてしまう」場合です。
介入について参加者が誤解していると、本人に向かって情け容赦なく問題を突き付けたり、あれもこれもと責め立てて、「治療を受けないなら、もう知らなぞ」とばかりに最終通告をしてしまう・・・ということが起こりがちです。

介入の場がこのような裁きの場となってしまうと、本人の態度は硬化します。みなが示し合わせて「自分を見放すための儀式」をしていると感じてしまうのです。その結果、「自分をじゃまにしている」「いなくなればせいせいするんだろう」「出て行けばいいんだろう」など、自暴自棄な行動になりがちです。

綿密に準備して正しい介入が行われても、本人の否認が強く、治療に結びつけるという目的が果たせないことがあります。けれど、ゴールには達していなくても、道の半ばまできている(サブ・ゴールを達している)場合がほとんどです。次のような状況の変化が起こっているはずだからです。

●チームのメンバーが問題を正確につかみ、依存症について理解した
●家族が共依存から回復しはじめ、本人との関係が変化した
●少なくとも、本人が自分の問題を自覚しはじめた
●関係機関との連携が組めた

かつては関係者がバラバラに動き、あちこちでイネイブリングが行われていました。けれどいまでは、共通の目標と方針があります。そして、それを本人に伝えるという場を共に体験したことで、もはや一人で苦しんでいるのではないのです。

今後も、情報を伝えあったり、方針を相談する「仲間」であることを、お互いに確認しておきましょう。これだけの土台ができていれば、チャンスはまたやってきます。あきらめず、作戦を建て直して次のチャンスに備えましょう。

なお、介入場面では意地になってしまい、首を縦にふらなくても、あとで考え直して自分から治療の場にあらわれるというケースもあります。「酒を減らす」と宣言して結局はうまくいかなたったことで、自分の問題を実感し、断酒への動機づけが高まることもあります。何がどう幸いするのか分からないものなのです。

コラム

その人の背景に応じた対応のヒント

かつては「アルコール依存症は中年男性の病気」と思われていましたが、現在では、若者や女性、高齢者と層が広がっています。その人の背景に応じた介入の工夫が必要です。

■ 若者
10代からアルコール・薬物に依存していた人は、まだ社会生活のスタートを切っていない場合が多く、断酒に加えて、自立と成熟も回復のための課題となる。大人からの意見や忠告に抵抗がある場合は、若い回復者をチームに入れたり、同世代がいる自助グループに出席をすすめる。「仲間」との共感から学ぶことが、断酒と自立に役立つ。
親がイネイブリングから抜け出せないことも多いため、「これまで子どもの心配に費やしてきたエネルギーを、自立を支えるために使う」よう話す。

■ 女性
依存症の女性に対しては、男性の場合にまさる誤解と偏見が世間にある。本人もそれに縛られて恥じや罪悪感にさいなまれやすい。問題を指摘すると同時に、これが病気のためであることをていねいに説明し、自責感を強めない配慮が必要。家族に対しも、病気と回復についての理解とサポートを得られるよう介入する。
子どものいる女性で、子どもから引き離される不安が強い時は、不安を受け止め、家族間の調整を行うとともに、必要なら弁護士にチームに加わってもらう。
なお、若年女性では摂食障害との合併ケースが多い。その場合も、原則として断酒が優先する。摂食障害の治療を受けているなら、主治医との連携のもとで介入を行う。

■ 高齢者
家族は「もう歳だから好きな酒ぐらい」と思ったり、「飲んで死んでもしかたない」とあきらめがち。病気であること、進行すれば失禁や痴呆のような症状で家族の負担も大きくなる可能性が高いこと、飲んで死を迎えるのとしらふで老後を過ごすのとでは大きな違いがあることなどを話し、介入の必要性を理解してもらう。長い社会生活を経験している分、いったん断酒の必要性を納得すれば回復はスムーズにいく場合が多い。
介入の際は、やさしさと敬意を示すことが不可欠。不慣れな場所に行くことへの不安を除くよう配慮し、年齢相応の理解力を考慮すること。

■ 単身者
上司、同僚、内科主治医や職場の健康管理職、あるいは親身になってくれる友人(飲み友達以外)・近所の人・大屋さんなどでチームを組む。離れた場所に住む身内で協力が得られる人がいれば、介入に参加してもらうとよい。無理なら手紙い持ちを。
生活保護を受けている場合は、福祉事務所のワーカーからの介入が効果的。生活の基盤がかかっているため、しぶしぶでも受診する場合が多い。その後の回復のためには、保健師・民生委員・内科医・大屋さんなど、チームでのフォローが不可欠。

■ アルコールと薬物に依存している/複数の薬物に依存している
「しらふ」の状態が少ない場合、介入が難しくなる。今どの薬物の影響下にあるかを判断するのが難しいため、なるべく家族だけの介入は避け、薬物を専門とする援助者が介入を綿密にサポートすることが望ましい。
違法薬物への依存の場合は、逮捕されることが危機介入のよいきっかけとなることも。家族が介入を行っても成功しないいは、「受診しないなら、今度薬物を発見したら警察に通報する」よ告げるとよい。恨みやしこりを残さないよう、愛情にもとづいたぎりぎりの選択であることを伝える。決しておどしに使わず、告げたことは実行する。

■ うつ病との合併
アルコールを専門としない病院では、依存症によるうつ状態が「うつ病」と誤解されるケースも多い。抗うつ剤などを服用しながら飲酒を続けると、状態は悪化するため、注意が必要である。依存症とうち病・躁鬱病を合併している場合も、断酒してしらふになることが先決である。
うつの治療はそれからで、そこでいずれにせよ飲酒問題にテーマを絞った介入を行うが、自殺の危険性などには十分配慮する。かかりつけの医師と連携しつつ、援助者の綿密なサポートのもとで暖かい雰囲気の介入を。受診まで、本人に必ず誰かがつきそうとよい。それ以外の精神疾患との合併でも、主治医との連携が欠かせない。

■ 重役・経営者・著名人
プライドや自分を弱い人間とみなすことへの抵抗が、介入を難しくすることが多い。また、周囲にたくさんのイネイブラーがいる可能性が強い。家族も、問題が明らかになることや、今までのライフスタイルが変わることを恐れている。
本人に強い影響力をもつ人を誰か一人でもチームに引き込み、介入の必要性を周囲に納得してもらう。プライバシーを慎重に保護する約束をし、依存症で治療を受けることが本人のキャリアの障害とならないよう考える。どんなに重要なスケジュールをキャンセルしても、介入の価値があることを話す。

■ 医師などの専門職
専門職ゆえに、最後まで問題を隠そうとしやすい。また、他人を援助することに慣れていても、自分が援助を受けることには慣れていない。また、本人の社会的対面や地位を守るための周囲のイネイブリングが強固なため、介入に先立ってイネイブリングへの対応を重視し、特に家族への教育とサポートを徹底する。

■ 専門職であるあなたの身内
プロであっても、自分の家族に介入を行うのは非常に難しい。様々な情がからむためである。そこで信頼される専門職に介入を依頼し、自分はあくまで家族の一人として参加する。自ら介入の中心になるのはできれば避けた方がよい。

Ⅲ 現場で役立つマニュアル

3つの立場からのアプローチ

様々な現場で、援助者(治療者)が介入においてどのような役割をとるかを、3つのパターンで整理してみましょう。

区分A 問題を見つけて自ら介入B 相談を受けて介入を後押しC 受診した本人に「治療的介入」
援助者の立場直接本人に接する本人には直接会えない治療の場で本人と接する
職種〇職場の健康管理職
〇内科・外科・一般の精神科の医師・看護婦・ワーカー
〇保健所の保護師・ワーカー(相談員)
〇保健センターの保健師
〇福祉事務所のワーカー
〇児童相談所のスタッフ
〇学校の養護教諭・スクールカウンセラーなど
〇精神保健福祉センターの医師・ワーカー・保健師・心理職
〇保健所の保健師・ワーカー
〇保健センターの保健師
〇女性センターのスタッフ
〇専門病院やクリニックの医師・ワーカー・心理職など
〇専門病院やクリニックの医師・看護職・ワーカー・心理職など
介入の特徴問題の存在に気づいて一対一で介入、あるいはチームで介入。場合によっては危機介入になる。家族などの相談を受けて問題点を整理。同居家族などを中心としたチームでの介入に向けてサポートすうr。場合によっては危機介入になる。初期介入によって治療の場にあらわれた患者に対して、スムーズな治療開始のための介入を行う。

 A 問題を見つけてプロが自ら介入

問題を発見する

目の前にいる人のアルコール問題を発見するサインをあげておきます。その他の薬物は種類によって問題の現れ方がまちまちなため、ここでは触れません。

身体面から

◇ アルコール関連の内科疾患をくりかえし、治療してもなかなk改善しない
(脂肪肝・アルコール性肝炎・肝硬変・急性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・マロリーワイス症候群・糖尿病・高血圧・アルコール性心筋症・慢性すい炎など)
◇ ガンマGTPのデータが正常値を著しく超えている(ガンマGTP値100以上の場合は必ずマークする)
◇ たびたび転んでケガをくりかえす
◇ 骨粗しょう症や大腿骨骨頭壊死
◇ 末梢神経障害
◇ ひどく寝汗をかく、手が震えるなど、離脱症状と思われる症状がある
◇ 内科や外科への入院などで酒を抜くと、離脱症状と思われる症状や訴えがある
(微熱・発汗・イライラ・不眠・手の震え・全身の震え・幻覚など)
◇ 栄養失調を指摘される
◇ 病み上がりなのに飲み、すぐに病気がぶりかえす

行動面から

◇ 毎日のように飲む
◇ 飲まないと眠れない
◇ 飲むべきでない場所、状況、時間帯に飲んでいる
◇ 飲酒について忠告する人を避けたり、飲むことに対する言い訳をする、ウソをつく
◇ 酔ったときの行動を覚えていないことがたびたびある
◇ 酔ってケンカなどのトラブルをくりかえす
◇ 飲酒運転をくりかえす
◇ 隠れ酒をする
◇ 酒以外の物事に興味を失っている
◇ 飲んだ後で失禁する
◇ 飲み代の借金がたまっていたり、サラ金から借金している
◇ あらかじめ数杯引っかけてから酒席に出る
◇ 昼間から酒臭がする

職場で

◇ 理由のはっきりしない欠勤や遅刻がたびたびある
◇ 不注意による事故をたびたび起こす
◇ 仕事の能率が低下する
◇ 取引先との約束をすっぽかす
◇ アルコール関連疾患による病休をくりかえす
◇ 外出したまま長時間戻らないことがある
◇ 健康診断を避ける
◇ 出勤時に酒臭がする
◇ 夕方になると早く退社したくてイライラしている
◇ 上司や同僚の注意や非難に対して過度に反応する
◇ 同僚からしばしば金を借りる
◇ 自分のやった仕事を大げさに話したり、説明があてにならない

早期発見のため援助者に求められること

表面にあらわれた問題の背景に、アルコール・薬物の問題があることを発見するためには、日頃から、次のような予防の網をはっておく必要があります。

メモ

〇一般への認識普及
アルコールや薬物の害・アルコール性疾患・依存症・関連問題について

〇ハイリスク群へのアポローチ
肝障害の人など、ハイリスク群を集めて認識普及、介入の可能性を告げる

〇チェックリストの活用
上記のリスト
KASTやCAGE

〇イネイブリングの構造を理解

コラム

子どものアルコール・薬物問題を発見するサイン

家庭や学校で、子どものアルコール・薬物問題を発見するためのサインをあげておきます。まず目につくことが多いのは、行動の変化です。

〇性格が変わったかのように、雰囲気が変化し、黙りこんだり、家族や友人から離れたり、急に怒り出したり、部屋に長時間閉じこもっていたりする。
〇成績が急に低下したり、学校でを活動に興味を失う
〇今までは好きだった趣味やスポーツなどに興味を失い、元気がなくなる
〇今までの友人とつきあわなくなり、どんな友人とどこでどう過ごしているのかを隠そうとする
〇今まで親が知らなかった仲間から、たびたび家に電話がかかってくる
〇部屋からアルコール飲料の空き缶や空き瓶、シンナーなどの薬物がでてくる
〇校内や学校行事で飲酒や薬物使用を発見される
〇家からお金や物がなくなる
〇アルコールや薬物問題について話そうとすると、拒否したり、言い訳したりする

身体面の変化が感じられることもあります。

〇たびたび呼吸にアルコール臭を感じる
〇充血した目、瞳孔の拡張、不規則な目の動きがしばしばみられる
〇以前に比べて不健康で、無気力、忘れっぽい、集中力の低下などがみられる

家族の問題の背後に隠れたアルコール・薬物問題

子どもが虐待を受けていたり、不登校やひきこもり、摂食障害などで援助を受ける過程で、親の飲酒・薬物問題が背景として浮かび上がってくることがあります。成績が急に低下したり行動が変化する、飲酒や薬物使用が問題となる、といった場合も同様です。

アルコール・薬物依存症は家族全体をまきこむ病気です。家族は飲酒問題への対応に長年にわたって追われる中で「共依存のルール」に支配されます。その中で、子どもがSOSのサインとして問題行動を起こすことがあるのです。

配偶者や成人した子どもも、ギャンブルやショッピングへの依存、摂食障害をはじめとするアディクションの問題を起こす場合があります。

また、夫から妻への暴力の相談や、離婚を巡るトラブルから、飲酒・薬物問題が発見されることもあります。援助者は家族一人一人の問題に個別に対応するだけでなく、家族全体をシステムとしてとらえる視点が必要です。

介入を行う「REACH」のアプローチ

アルコール・薬物の問題を発見したら、チームを組んで介入を行うか、あるいは援助者が一対一で介入を行います。特に職場からの介入や、福祉事務所からの介入は、生活の基盤とからんでいるために、成功の確率が高くなります。

一対一で介入する場合でも、問題を一人でかかえこまず、関連機関との連携のもとで行ったり、チームでケースについて検討したり、職場内での連携体制をつくっておくことが不可欠です。介入の場では、「REACH」のアプローチを行います。「REACH」はアメリカで、職場内での介入手法として使われているもので、5つのポイントをおさえた話し方です。

R=reason(理由)
例:今日、あなたにここにきてもらった理由は・・・
今日、私がここにきた理由は・・・

E=evaluation(選択肢)
例:最近のあなたの状態は・・・
先日も、こんなことが起こった・・・

A=alternative(選択肢)
例:援助を受けるなら、こんな場所がある・・・
今のままでは社内での立場はどんどん悪くなる・・・

C=concern(心配・気遣い・あなたが大切・あなたが必要)
例:私たちは、君のような人材を失いたくない・・・
このにいるみんなが、あなたのことを心配している・・・

H=hope(希望)
例:治療を受けて復帰してくれるなら・・・
依存症から回復して社会復帰している人はたくさにる・・・

REACHのアプローチは、一般医療・保健や福祉の場でも応用できます。
チームに本人の家族が加わって、介入の場で愛情や気遣いを表現したり、家庭内で悩んできた問題を具体的にあげることができれば、さらに成功しやすくなります。

B 相談を受けて介入を後押しする

相談・援助の場では、「家族が変われば、いずれ本人も治療の場に登場するはず」という定説があります。そこで、家族自身が楽になること、自分の生き方をすることを相談のゴールとしがちです。

それも間違ってはいません。「いずれ登場する」というのもある意味では真実です。ただし、実際にはそこまでに長い時間がかかり、その間に本人の問題は深刻化していくます。また、最後まで受診に至らないこともあるのです。

相談者のそのときどきのニーズに対応しているだけでなく、そもそもの問題への介入というゴールを積極的に設定することで、多くの人がさらに傷ついていくのを防ぐことができます。
疲れきって混乱した家族であっても、たまっている感情が整理され、正しい方法をしることができれば、介入を行う力を十分もっています。

家族(友人)への段階別サポート

  • ◎ 事態の把握 / 気持ちを受け止める / 緊急のニーズはあるのか?家族は混乱している。主語は誰なのか、どんな状態なのか、どうしたいのか繰り返し話してもらったり、質問したりして、事態を出来るだけ正確に把握し、整理する。
    同時に、「問題を家族以外の人に相談した」という勇気ある行動を評価する。今までの苦労をねぎらい、つらかった思いを受け止める。
    暴力や虐待、本人の身体的な状態などで、緊急ニーズがあればそれに対応する。ここまでは、初回の相談で決して欠かしてはいけないポイントです。
  • ◎ 依存症についての教育依存症という病気は人格の問題ではないことを説明し、「問題」と「その人自身」を分けて考えられるようにする。相談者が依存症についての誤解や偏見から抜け出し、家族としての恥や自責感から抜け出すようにする。
  • イネイブリングの意味を伝える他人を自分の思い通りに動かすことはできない。けれど、自分の思いを伝えることは出来るし、躊躇うべきでない。「手を放す」ことを「いっさい関わらない」ことと勘違いしない。これまでやってきた、不適切な直面化(相手を責める)をやめる。
  • ◎ 愛情や気遣い、希望を引き出す怒りや恨みがうずまいていると介入はできない。たまっている気持ちは適切な場で吐き出し、受け止められることで整理され、癒されていく。その上で、本人に対する暖かい気持ちを引き出す。回復への希望、回復してほしいという強い願いが生まれることで、初めて介入が可能になる。
  • ◎ 自分を主語に話す「あなたは~だ」と責めるのではなく「私は~と感じる」「私は~したい」「私はあなたに~してほし」と話せることが介入の条件。グループの中で「自分を主語に語る」練習をすることがもっとも有効です。
  • ◎ 他のイネイブラーへの働きかけ相談者が本人への行動を変えたとしても、他にイネイブラーがいて困る場合が多い。誰のことで困っているかをあげてもらう。その人に対して、相談者が依存症についての本や冊子を渡して読んでもらったり、行動を変えてくれるよう説明することが可能かどうか確かめる。それが難しい場合や効果をあげない場合は、援助の場に連れてきてもらうとよい。これは介入チームを組むための布石になる。
  • ◎ 介入に向けてチームづくり「今度こそ酒をやめて」と一対一の介入を繰り返しては失敗してきた家族は、自信をなくしていたり、本人に向かって何か言おうとすると緊張してしまったりするもの。けれどチームを組めば成功の確率はずっと高まることを話す。
    多くの場合、同居家族でチームを組むのが現実的。他に本人に対して決定的な影響力を持つ人がいれば、チームに引き込むのが望ましい。
    職場の関係者がチームに加わると、もっとも心強い。家族は職場に問題がオープンにすることをためらう場合が多いが、少しでも糸口があれば連携を組むよう心掛ける。治療につながったあとも、職場の理解がば安心である。
  • ◎ 「介入のための準備メモ」づくり本人に何を伝えるかをメモにまとめる作業を通じて、チームのメンバーが気持ちを整理し、問題となっている事実を分かち合うようサポートする。
  • ◎ 介入に向けてのチャック
    次の点に注意し、必要なチャックとサポートを行う。
    ■ チームのメンバーの人選から重要な人が漏れていないか?
    ■ メンバーの中で特にアプローチを必要とする人がいないか?
    ■ 治療機関との連携はできているか?
    ■ 本人の状況は急変していないか?
    ■ 介入の場の設定は適切か?
    ■ 暴力や自殺医企図などの危険はないか?
    ■ その他の突発事態への、メンバーの心の準備はできているのか?
  • ◎ 介入後のフォロー次の点に注意し、必要なフォローを行なう。
    ■ スムーズに受診できたか?
    ■ やむを得ず家で酒を切ることになった場合、離脱症状への対処は伝えてあるか?
    ■ スムーズに治療開始できたか?
    ■ 介入後に精神的にまいっているメンバーはいないか?
    ■ 介入に失敗した場合、なにがまずかったか?どんなサポートが必要か?
  • ◎ アフターケアできれば、治療中に本人や家族と面会し、心配なことがあれば聞き出して、引き続き力になることを告げる。
    職場との連絡が出来ている場合は、復帰後の職場の調整について、職場にアドバイスしたり、上司が、面会して本人の不安を除くように計らうという。地域での対応について、治療スタッフとの話し合いをしておく。

C 動機づけが十分でない人に「治療的介入」

「初期介入」は本人を治療に結び付けることがゴールですが、「治療的介入」は、治療開始後のスムーズな回復に向けての介入をさします。
回復のプロセスごとに、様々な問題への介入が必要となりますが、ここでは治療につながってすぐの介入について考えます。

治療への抵抗をどうするか?

介入が行われて、受診を承諾しても、「承諾」のレベルはさまざまです。
心から納得している場合はむしろ少なく、しぶしぶ降参したという状態の人が多いものです。
「無理やり連れてこられた」「上司の命令だからしかたなくきたが、自分には問題はない」と強い抵抗を示し場合も。

関係者が周到な準備の上で介入し、やっと治療の場にあらわれた患者を、「動機づけができていない」と返してしまっては、せっかくの苦労が活かされません。それどころか、治療を受けずに「返された」ことで本人の否認がいっそう強固になってしまうこともあるのです。

治療の場にあらわれた人が抵抗や否認を示した場合、治療スタッフによる介入を改めて行うことが必要です。その基本的なプロセスを追ってみましょう。

なお、ここで重要なのは初期介入との連続性です。
初期介入を行った人々と連携し、そこで述べられた事実や気持ちを、治療的介入に生かすことで、振り出しに戻ってのやり直しを避けることができます。

◇ 治療導入時の抵抗には、どのようなものがあるか

・無理に連れてこられたが、自分は本当は「アル中」ではない
・酒ぐらい一人でやめられる
・家族がオーバーなだけだ
・仕事を休めない、3ヶ月も入院できない

◇ 「問題は何なのか」よく聞く

・精神科への偏見
・依存症への偏見
・断酒(薬)への不安
・治療環境への不安
・飲酒・薬物問題そのものの否認
・仕事を失う事への不安
・経済的な不安

◇ なぜ、「自分が今ここ(専門医療の場)にいるのか」を確認してもらう

「なぜ、あなたはここにくることになったのでしょう?」と改めて問いかけて、どんな経緯で受診することになったのか、これまであった事実を具体的に確認していく。

本人の認識や感じ方ではなく、行動と事実に焦点を当てるのがポイント。そのために、受診に向けての介入に立ち会った家族や関係者に、診察の場に立ち会ってもらうのが効果的。「準備メモ」も役立つ。

◇ 不安を解消する

・依存症について説明する
・治療プログラムについて説明する
・面会や外出・外泊、精神保健福祉法に定められた患者の人権について説明する
・病棟を案内する
・患者や回復者に会ってもらう
・院内でのミーティングを体験してもらう
・職場との調整を行う
・治療費や経済的な援助についての相談に乗る

◇ 再度、治療を受けるかどうかを選択してもらう

治療を選択した場合は、握手でスタートする。
選択しなかった場合は、「自分のやり方でやってみて、うまくいかなかったら治療を受けることを約束してくれますか?」と聞いて、家族などのいる前できちんと約束してもらい、次の介入への布石とする。

回復プロセスにともなう否認について

治療への抵抗と否認をクリアしたあとも、回復プロセスにともなって様々な否認が出てきます。「自分は他の患者ほど」ひどくない」「自助グループにいかなくても大丈夫」「酒さえやめれば何も問題はない」「自分の家族関係や対人関係には問題はない」などです。
治療スタッフは、こうした否認に対する介入を行い、回復をすすめる手助けをします。それはまさに治療そのもの。

コラム

再飲酒への介入

再飲酒は、再発プロセスの中で起こる行動です。
再発の引き金⇒再発の行動⇒再飲酒⇒破綻というプロセスの、なるべく早い段階で介入を行うことで、治療前の状態に戻るのを防ぐことができます。けれども、引き金に出会ったり再発の行動がでているのを周囲の人が見逃すことも多いもの。その結果、再飲酒に至ってしまうのです。

再飲酒への危機介入は、少しでも早く行う必要があります。できれば、飲み始めてから3日以内に。それを過ぎると、もとの飲酒パターンに逆戻りしてしまうことが多いからです。
再飲酒への介入の原則は初期介入と同じですが、危機介入に近い形になります。ともかくその場に駆けつけられる人が、次の点に注意して介入を行います。

◎ 本人は飲んだことを恥じ、自責感を感じているもの。決して責めずに、苦しみを受け止める。
◎ 心配していること、大切に思っていることを伝える。
◎ これまでの断酒が無駄になったわけではないことを話し、一日も早く回復のプロセスに戻って欲しいと伝える。
◎ 治療者や自助グループの仲間など、周囲に飲んだことを隠そうとせず、むしろこの体験を今後に活かしてほしいことを伝える。仲間が暖かく迎えてくれることを伝える。

なお、治療を受けて間もない時期の再飲酒は、むしろ断酒への動機付けのチャンスとなるとが多いものです。初期介入を受けてしぶしぶ治療を開始した人は、自分をアルコール依存症と認めないまま、飲める機会があると即座に再飲酒する場合があります。そんなときこそ、今度こそ本当の回復へ向けて介入を行うべきなのです。

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