【知っておこう】アルコール依存症の正しい知識と対応について(Part-2)

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目次

Ⅰ 治療をすすめる

アルコール依存症の人に治療をすすめるには。
チャンスをどう活かすのか。
何をどう伝えるのか。

1 「治療をすすめる」ことがなぜ必要か?

アルコール依存症の人がみずから進んで治療を受けることは少ないものです。
「飲んで死ねたら本望だ」「放っておいてほしい」という態度の裏には、次にような苦しさがあります

  • 脅迫的飲酒欲求と離脱症状のため、飲まずにはいられない
  • 酒がきれたときのうつ状態・不安・自責感などから、飲めばらくになれる
  • 周囲から冷ややかな目で見られ、孤独を救う手段が酒しかない
  • 世間の「アル中」イメージがあるため、自分がそこまで落ちたとは思いたくない
  • 酒ぐらいやめようと思えばいつでもやめれる、人の助けはいらないと思っている
  • 病気だと知らず、酒をやめようとしてもやめられない自分を恥じている
  • 治療のイメージがなく、どんなことをされるのか不安でたまらない
  • 回復のイメージがなく、飲まない自分が想像できない
  • 現在の破滅的なライフスタイルが、自分の生き方だと信じている
  • 病気の進行につれて「命よりも酒が大事」という価値観の逆転が起こっている

こうして、問題を否認しながら飲み続けているのです。

予 見 可 能 な 病 気

アルコール依存症は進行性・致死性の病気です。
ほとんどの人は、自分がどんな病気になっているのか知らず、治療と回復についても知らないまま、飲み続け病気が進行していきます。

step
1
飲酒のパターンがくずれていく


離脱症状がひどくなり、夕方からだけ飲んでいた人も、明るいうちから酒を口にするようになる。連続飲酒が始まる。

耐性の低下(酒に弱くなる症状)が生じ、酔いの快感を味わう間もなく、酔いつぶれてしまう。そのため、周囲に迷惑をかけるトラブルも増える。
飲んでいてもつらい、しかし飲まずにはいられない、という状態になる。

step
2
体の故障が起こる


肝臓や胃腸などの疾患が悪化したり、連続飲酒の末に水も受け付けない状態になるなど、体の症状がひどくなる。しかし、体だけ楽にしてもらえれば再び飲み続け、さらに症状が悪化。

step
3
社会的信用を失う


社会的能力が低下し、仕事上のミスや事項も増える。警察沙汰などのトラブルを起こすこともある。人間関係が壊れ、使用をなくし、家族や友人から見放される。

step
4
生きる場を失う


やがて家庭を失い、周囲の人間関係や仕事を失い、生きていくすべてを失う。関連疾患や事故で命を失う。

治療開始は、早ければ早いほどよい・・・というのは、それだけ失うものが少なくて済み、失ったものの回復も容易だからです。そのため周囲から積極的に治療をすすめる必要があります。

本人が何の問題も感じていない状態では、治療をすすめても成功しません。飲み続けるデメリットを感じ、治療を受けて酒をやめるメリットを説得できる段階にきていることが前提となります。そうなるためには、周囲の人がイネイブリングをやめ、早く問題に直面してもらうことです。

まとめ 治療をすすめる必要性

アルコール依存症の人がみずからすすんで治療を受けることは少ない。
否認しながら飲み続けているうちに、病気は進行し、大切なものを失っていく。
周囲がイネイブリングをやめ、本人が飲酒のデメリットを感じ始めた段階で、少しでも早く診療と治療を受けるようにすすめる必要がある。

インタベンション その1

初期介入のノウハウ

Intervenntion(インタベンション)は、「介入」「調停」「干渉」などの意味で一般的に使われる語である。また、専門用語としても、精神医療・福祉・教育・法律・国際問題などの分野で使われる。

アルコール依存症の治療・援助の分野では、治療導入するための「初期介入」、依存症家族への「家族介入」、回復プロセスでの「治療的介入」などがある。

日本では、インタベンション(介入)は多くの場合、依存症者に治療を説得することをさしているが、依存症初期に介入が行われることは少なく、末期に至って介入が行われているのが現実です。これはインタベンションの基本的な考え方やノウハウが広まっていないことも一因である。

アメリカで、初期介入の手法が確立したのは1970年代のこと。依存症者の心理をとらえ、否認の構造に外から働きかけ、回復への望みや力を引き出すことを基本とした援助テクニックである。その背後には、飲酒問題をかかえる企業従業員への援助システム(EAP)の発展があり、早期に治療に結び付ける努力の中で介入のノウハウが積み上げられている。

介入を受けた従業員の80%以上が治療を選択するという数字もある。
アメリカでは、司法による介入も盛んである。飲酒運転やDVなどアルコールが」からんだ犯罪では、処罰に加えて、治療や教育プログラムの受講を裁判所が命じるのである。近年では、アルコール依存症者の4割以上が裁判所経由で治療につながっているという。

2 「治療をすすめる」のはなぜむずかしいか?

3つの理由があります。

本人の心理

自分の問題を指摘されるのは、誰でもいやなもの。そこで否認して自分を守ろうとする。依存症者の場合、強迫的飲酒欲求や離脱症状のための飲まずにうられないのだから、否認の心理はいっそう強く働く。
⇒相手の否認を解くよう、説得のしかたを工夫する必要がある。

周囲のイネイブリング

周囲がイネイブリングを続けていれば、問題に直面せずにいられるため、介入の効果が上がりにくい。
⇒周囲がイネイブリングをやめる必要がある。

不可能という思い込み

家族も治療・援助者も、「周囲が説得しても無駄」「とことん飲んで自分で底をつくしかない」と考えている。
⇒思い込みを変える必要がある。

Q&A

質問1

問題を自覚していないので、治療をすすめるのは無理では?

回答1

自覚していないように見えても、内心は不安に揺れており、それを直視したくないため、否認を強めてことが多いのです。上手に問題を指摘し、自覚を引き出すことが大切です。

質問2

家族が酒のことを話すと怒りだすので、治療をすすめるのは無理では?

回答2

攻撃的・批判的な話し方は、怒りを招きます。あくまでも本人のために治療を受けてほしい気持ちを、暖かく話すことです。本人にとって権威のある、職場の上司や主治医、年上の親戚などに協力を求めるお有効です。

質問3

酒をやめろとうるさく言うのは逆効果では?

回答3

「酒をやめるべき」「治療を受けるべき」という説教ではなく、情報を与えることです。やめられないのは依存症という病気だということ、治療を受ければ回復すること、そして具体的にどんな治療や回復の場があるのかということについて、知ってもらうのです。

質問4

とことん飲んで、底をつくしかないのでは?

回答4

ただ手をこまねいて「底をつく」のを待っている間に、病気は進行し、多くの物を失っていきます。治療開始のために「底をつき」は確かに必要ですが、それが全て失った「どん底」である必要はありません。

依存症という病気に至ったことは、飲酒者にとっての「底」です。そして依存症は進行性の病気であり、日々「底」は深まっていきます。それをいつ自覚するかが問題です。体の不調がめだってきた段階で底を自覚する人もいれば、職場で大きな問題を起こしたことで自覚する人もいます。

周囲の人はすべてに見放され、死の危険が迫った段階で底に気づく人もいます。「まだ」底でない」と思い続けながら死んでしまう人もいます。なるべき早い段階で「底」を自覚させる働きかけ、つまり「底あげ」こそが、初期介入なのです。

まとめ 底つきではなく底上げをしよう

依存症が進行性の病気だということは、日々「底」が深まっていくということでもある。「まだ底ではない」と思っている人が文字通りどん底へいきつくまで手をこまねいていないので、早い段階で底を自覚させる「底上げ」が重要。

3 どんな人が治療をすすめるのか?

依存症者の周囲には、たくさんの人がいます。
診療と治療を受けるよう説得するのに適任なのは、

どんな立場の人でしょうか。

  • 「健康なその人」を必要とする人(一緒に生活している家族、職場の関係者など)
  • その人が頼りにしている人、尊敬している人(かかりつけの内科医、年上の親戚、先輩など)
  • その人のことを理解し、大切に思っている人(配偶者、親、子ども、兄弟姉妹、有人など)
  • その人にとって影響力が大きい人(職場の上司、福祉の生活保護担当ワーカーなど)
  • 回復を体験している人(依存症の回復者、回復者の家族など)
  • 診断・治療の専門知識がある人(依存症の専門医)
  • 本人と家族の立場を専門的に理解している人(保健師、ソーシャルワーカー、心理士など)

説 得 の 前 提 と な る も の

治療をすすめる人の立場によって、説得の中心となるものは違ってきます。例えば家族ならその人への身近な愛情によって、専門家なら知力のメリットと飲み続けるデメリットを客観的に示すことによって、回復者なら自分の体験よって・・・という具合です。
けれども、共通して欠かせない条件が3つあります。

「病気」だと納得してますか?

アルコール依存症という「病気」を知識として理解しているだけでなく、本人がその病気で苦しんでいることを心から納得していることが必要。

人格上の問題ではないかと思っていると、どうしても責める態度になり、治療の説得はむずかしい。

回復することを信じていますか?

依存症が回復可能な病気だと知っているだけでなく、自助グループなどに出かけて回復者に会い、回復の姿を真に実感していることが治療をすすめる力となう。

その人が回復してほしいと心から思いますか?

周囲の人の都合で、依存症者の心を動かすのは難しい。例えば、家族の場合なら、「飲まなくなってくれたら私たちはゆっくり眠れる」、職場の関係者なら「迷惑をかけるのはいいかげんにしてほしい」という思いだけでは、治療の説得は困難である。病気から回復して「本来のその人」にもどってほしい、「本来のその人の人生」をとりもどしてほしい、という思いが必要である。

4 気持ちを伝える話し方

人を動かすためには、どんな話し方が有効かしっておきましょう。
特に家族など周囲の関係者が説得にあたる場合、話し方の原則は、次の4つです。

話 し 方 の 原 則

自分の気持ちを率直に伝える

「心配している」「悲しい思いをしている」「怒りを感じてきたが、病気だとわかって驚いている」「私も悪いことをしたかなと思っている」など、自分の感じている気持ちを言葉にして伝え、「回復してほしいと思っている」ことを暖かく伝える。

事 実 を 述 べ る

依存症h者は自責感に苦しんではいても、酔いの時間が長いために問題の深刻さを正確に認識しているいないことも多い。そこで、客観的に見た現在のその人の状態、直面しているトラブルなど、事実を冷静に話す。依存症という病気だと思われること、治療を受ければ回復できることウ合える。非難や断罪ではなく、あくまで「事実」を話すことが重要。

やってほしいことを具体的に言う

漠然と「回復してほしい」と伝えるだけでは説得の意味がない。「酒をやめてほしい」と言って「約束する」と答えても、約束で病気が治ることはない。具体的に「〇〇病院に診察を受けに行ってほしい」「明日〇〇クリニックに相談に行くので、一緒に行って欲しい」「○○先生に、今から予約の電話をかけてほしい」などと話す。どんなところか?何をするのか?という疑問にも答えるように準備しておくとよい。

自分の都合より相手のメリットを話す

治療を受けて回復することで、家族や周囲の人にどんな利益があるか(もう心配しないですむ、迷惑をかけられないなど)ではなく、本人にとってのメリットを放し、このまま飲み続けた場合の結果と比べてもらう。

家族が治療をすすめる場合の話し方の例

あなたのことが心配だったので、病院に相談に行ったら、アルコール依存症という病気だと言われました。お酒のことが今まであなたを責めたり恨んだりしてきたけれど、病気だったと分かってむしろホットしました。あなたもつらかったのにきつく当たってごめんなさい。

この病気は、放っておくと体も心も健康を失って最後は死んでしまうけれど、専門の治療を受ければ回復するそうです。回復した方たちにもあってきたのですが、みんあ、あなたの症状と同じことを経験して苦しんだのだそうです。今は、すっかり元気で立派に社旗復帰しています。

私はあなたにもとのように元気になって貰いたいのです。今のあなたを見ているのは本当につらいから。専門の病院(クリニック)に、今から電話して予約をとりたいと思います。診察を受けるときは私も一緒に行きますから、是非行きましょう。

5 家族が説得にあたるための準備

説得の中心となるのは、多くの場合、一緒に生活している家族です。
あらかじめ次のような準備をしておくと、説得が成功しやすく、その後の治療開始もスムーズになります。

周囲を固める

  • 家族全員に依存症という病気のこと、治療を受ければ回復することを伝え、治療に向けての思いを統一しておく。
  • 家族全員で対応について話し合い、共通の認識のもとに行動できるようにしておく。
  • 職場の上司に依存症という病気のこと、治療を受ければ回復することを伝え、理解と協力を求める。
  • 本人がいつもかかっている内科医などに、理解と協力を求める。
  • できれば親戚や頼りになる友人にも、理解と協力を求める。

治療への体制づくり

  • 治療を受けたい専門の病院やクリニックと連絡をとり、状況を話して相談し、スタッフとの信頼関係をつくっておく。
  • 初診を受付ける曜日や時間を調べておく。
  • 治療の内容を知っておく。
  • 医療機関や保健所の家族教室などにあらかじめ参加し、知識を得ておく。
  • 家族教室などで他の家族の体験を聞き、これからのプロセスについて実感しておく。
  • 断酒会や、AAのオープン・ミーティングなどに出かけて回復者の体験を聞き、これからのプロセスについて実感しておく。
インタベンション その2

職場からの介入プロセス

EAP(Employees’ Assistance Program 従業員援助プログラム)は、企業従業員のアルコール問題を予防したり、早期発見・治療をすすめるため、1940年代のアメリカで始まった。今では、薬物・うつ病・ノイローゼ・家族関係の問題・老後の問題・在宅老人の介護など、従業員のメンタルヘルス全般をカバーするシステムに発展している。

アルコール依存症の早期発見・治療は、1970年代にインタベンションの技法が確立したことで飛躍的に進み、次のようなプロセスで行われるになった。

step
1
問題発見


Aさんの飲酒問題が上司からEAPスタッフ(社内あるいは社外)に報告される。何らかの対応を行うことが決定される。

step
2
問題の正確な把握


EAPスタッフがAさんの上司・同僚・家族など関係者の話を聞き、事実の把握に努める。また、Aさんの飲酒に関して誰がいつ、どんな忠告を行ったかを調べ、それがすべて失敗に終わっていることを確認する。

step
3
関係者のカウンセリング


周囲の関係者一人一人に対し、EAPスタッフが依存症という病気について説明、イネイブリングをやめて治療導入に向けての統一した態度をとってもらう。

step
4
関係者の協議


上司・同僚・労組代表・人事担当者などの社内の関係者と、家族とが、EAPスタッフのもとで共通認識を確認し、「介入」場面の予行演習を行う。

step
5
介入(インタベンション)


Aさんへの介入が行われる。

6 説得のチャンスはどんなときか?

治療をすすめてもうまくいかないのは、タイミングがよくない場合が多いのです。
例えば・・・。

酔っているとき

問題を指摘すると、怒りを引き出しやすい。話し合ってもほとんど意味はない。

飲み始める時間が迫っているとき

夕方から飲み始める人の場合、その数時間前には早く飲みたくてイライラしている。

飲まずにいる時期

本人は飲酒をコントロールできていると思いがち。体がよくなればまた飲み始める。

では、説得のチャンスはどんなときでしょうか?

朝起きて酒が入る前

しらふになって自分の行動を後悔したり、将来の不安にかられて、落ち込んでいることが多い。

酒を受けつけなくなった直後

とにかく体がつらいので、どうにかしたい一心で治療を受け入れやすい。

* 体を壊したり事故などで入院したとき、警察沙汰などの社会的トラブルが起こった時などの危機的状況も、介入のチャンスです。

説 得 を 受 け 入 れ た ら

決心をうれしく思う気持ちを、率直に伝えましょう。本人にとっては追い詰められていやいやの選択かもしれません。暖かい励ましが今後の力いんあります。

次に、少しでも早く診察を受けに出かけることです。一度承諾しても、時間が経つにつれて、飲酒要求や離脱症状のために迷いが生じがちだからです。

例えば、金曜の夕方に介入を行うと、ほとんどの医療機関は土日の初診は不可能なため、少なくとも週末の間、不安定な状態に置かれることになります。

援助職が介入の場をコーディネイトする場合は、本人が説得を受け入れたら即、診察に向かえる体制を作っと置くべきです。

家族だけで説得に当たる場合は、突発的なチャンスをとらえることも大事なため、必ずしも曜日を選んでいられません。そこで少なくとも、診察を受けたい医療機関を調べておき、初診の曜日や予約のシステムを知っておくことです。

できれば医療機関のスタッフにあらかじめ事情を話し、協力を求めておくことをすすめます。家族以外に説得にあたった人がいる場合は、診察に出かける日にも再び来てもらうと心強いです。

医療機関の実情によっては、数日後出ないと予約がとれなかったり、お酒が抜けていないと診察してもらえない場合があります。離脱症状が出る時期を家庭で過ごすことになるので、離脱期のケアを知っておきましょう。

インタベンション その3

職場での介入場面の実際

EAPの介入場面を日本的なものにしたモデルを、次に示しておく。

ある日、Aさんが出社するとすぐ、役員室に呼ばれた。そこには直属の上司、人事部長、会社の嘱託医、健康管理室の保健師、Aさんの家族がいた。

上司

最近、君らしくない行動が目立つので心配している。例えば、〇〇のような事実があるが、原因は酒の問題ではないかと思って先生に相談したところ、君の飲酒はアルコール依存症という病気ではないかと言われた。そこで治療について考えるために来てもらった。

嘱託医

健康診断の時の肝臓のデータを見ても、このままの飲み続けると再起は難しいですよ。高血圧やケガの原因も酒ですね。あなたはアルコール依存症になっている可能性が高い。専門医を受信されることをすすめます。

Aさん

 

私はアル中なんかじゃありませんよ。今までそれなりの仕事をしてきたじゃありませんか。

保健師

アルコール依存症は、仕事のキャリアや性格には関係なく、飲酒のコントロールがきかなくなる病気です。飲み続ければ最後は何もかも失って死にいたります。でも治療を受ければ必ず回復できます。

家族

お酒ばっかり飲んで勝手な人だと思って責めたり悩んだりしたけど、病気だったんですね。早く治療を受けて、もとの健康的なあなたにもどってください。子どもたちも待っているから。

人事部長

 

君が進んで治療を受けるなら、病休の後は元のポストで今までどおり活躍してもらいたい。その代わり、治療を拒否するなら、近いうちに仕事を失うことになるだろう。そのことを考えて、答えを聞かせてくれ。

Aさん

わかりました。治療を受けます。

7 説得に失敗しても次の布石に

治療をすすめるのが家族、関係者、治療、援助者、いずれの場合でも、依存症者が治療を受け入れるかどうかは、説得する人の責任ではありません。あくまで依存症者自身の選択です。

気持ちを精一杯伝えても相手が聞く姿勢を見せない場合、「なぜ分からないのか」と責めたり説教したりせず、次の機会を待ちましょう。「今度また、話をしましょう」と言って終わりにすればよいのです。

説得の方法に改善すべきところはなかったか、振り返ってみましょう。

  • 話をするタイミングは適切でしたか?
  • 周囲の人の態度は一致していましたか?
  • 説得に当たるメンバーは適切でしたか?
  • おどしたり責めたりしませんでしたか?
  • 家族など身近な人の気持ち(心配しているなど)を暖かく伝えられましたか?
  • 飲酒が原因で問題が起こっている事実、依存症という病気のこと、治療を受ければ回復することを、確信をもって冷静に伝えられましたか?
  • 治療を受けて回復してほしいという身近な人の気持ちを、心から伝えられましたか?

表面上、説得に失敗しても、話したことは決してムダにはなりません。依存症者にとって、飲酒の問題を直接伝えられたこと、身近な人の気持ちを聞いたことは、いずれ回復へと向かうための貴重なチャンスとなるはずです。

心の中で、「酒をやめるか、このまま飲み続けるか」と葛藤が起こった時、すでに回復の最初のプロセスは始まっているのです。

Ⅱ 専門治療の意味

アルコール依存症の治療・相談の場はどこにあるのか?

治療プログラムの中身と目的を知る。

1 専門の治療がなぜ必要なのか?

アルコール依存症の治療を受けるには、専門のスタッフがそろったた病院やクリニックが適しています。
世間にはアルコール依存症への誤解や偏見が強いのと同様、医療の場でも正しい理解はまだ広まっていません。依存症への理解や認識が不十分な機関では、次のことが頻繁に起こります。

◆ 表面に現れた内科疾患だけを治療して、アルコール依存症が背後にあることが見落とされ、内科の症状がよくなると再び飲み始める結果になってしまう。

◆ 表面に現れた精神的な症状からうつ病その他の病名がつけられ、間違った方針で治療がすすめられてしまう。

◆ 依存症からの回復は断酒が前庭なのに、節酒をすすめられる。

◆ 家族が相談に行っても、本人を連れてくるようにと言われて、断られてしまう。

専門の治療機関とは、次のような条件を満たすところを言います。

〇 断酒を前提とした治療とケアが行われる。

〇 アルコール依存症という病気や回復についての教育プログラムがある。

〇 同じ病気をもつ仲間がお互いの体験や問題を分かち合うプログラムがある。

〇 回復者や自助グループとの出会いのチャンスが用意されている。

〇 本人が治療を開始する前から家族の相談を受け、その後も家族全体をサポートするプログラムがある。

〇 本人や家族の痛みを受け止め、回復へのサポートとノウハウが提供される。

専門治療に至るまでにつけられた
数々の病名の例

① 内痔核、② 高血圧、③ 狭心症、④ 一過性脳虚血発作、⓹ 肝機能障害、⑥ 左外耳道炎、⑦ 急性咽頭炎、⑧ 足関節捻挫、⑨ 慢性腎不全、⑩ 糖尿病、⑪ 耳垢栓塞小、⑫ 慢性副鼻腔炎、⑬ 急性腹症、⑭ 右外耳道炎、⑮ 急性両中耳炎、⑯ 両耳管狭窄症、⑰ 眩暈(脳血栓・冠不全の疑い)、⑱ 急性腹症(胆石症の疑い)、⑲ 頸痛症、⑳ 不安神経症、㉑ アルコール依存症

上記の病名は、Aさんに4年間でつけられた病名です。
この間、Aさんは生活保護を受けながら内科や外科の病院を転々とし、最終的にアルコール依存症と診断されるまでに主なものをざっと数えたえで20の病名がつけられていました。

生活保護受給者だからこうした記録が残っていたわけですが、一般的にアルコール依存症の患者は専門治療にたどり着くまでに、こうした長い経緯をたどる場合が多いのです。

アルコール関連疾患で一般病院にはじめて入院してから専門治療にたどりつくまでに、平均で7.4年かかっているという調査もあります。入退院を繰り返すたび、「飲める体」に戻してもらっているのが実態なのです。

最近では、アルコール依存症への認識のもとに断酒を指導したり、依存症専門医との連携で治療を行う内科医もでてきました。早期発見のためにこうしたアポローチがもっと広まることが期待されています。

相談の場はどこにあるのか?

飲酒問題に関する相談のうち、無料のものをあげておきます。

精神保健福祉センター

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各都道府県にある精神保健福祉センターの多くが電話での相談を受けつけ、面接相談で地域の治療機関や自助グループの紹介、カウンセリングなどを行っている。アルコール家族教室をはじめとするグループ相談の場を設けているところもある。

保健所・保健福祉センター

👇
電話や面接で本人や家族の相談を受けている。家族教室などのプログラムを持っているところもある。

AKK(アディクション問題を考える市民の会

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アルコール依存症・薬物依存症・摂取障害をはじめとするアディクション一般に関する相談を受け、教育や援助を行っている。特にこうした問題に悩む家族の相談に積極的に対応。各地で相談会も行っている。

ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)

👇
地域の専門機関の紹介を中心とした電話相談を行っている。

2 一般的な治療プログラムの中身

アルコール依存症の回復には、医学的な治療だけでなく、自分の病気を理解したり、人間関係や生活バランスを立て直す作業がかかせません。

そこで専門治療機関では、医師・看護婦・ソーシャルワーカー・心理士・作業療法士などのスタッフがチームを組んで治療・援助にあたります。

家族全体の援助や、地域の自助グループ・リハビリ施設との連携も行われています。かつては依存症の患者というば中年層の男性がほとんどでした。

しかし、現在では女性、若年、高齢の患者が増加しているため、それぞれを対象とした個別性を配慮する治療プログラムが一部の地域で開始されています。

さて、専門治療機関での一般的なプログラムは次のようなものです。

初診受付/相談受付

多くの治療機関では初診日や曜日が決まっており、電話で予約するシステム。
家族の相談は、家族プログラムへと導入する流れになっている。

インテーク

ソーシャルワーカー又は看護職などが、受診に至った経緯、家族構成、飲酒歴、病歴などについて聞き取りをする。これが治療計画の基礎となる。

診察・診断

医師による診断と同時に、断酒を前提とした治療プログラムをすすめる。
患者が納得したうえで、治療契約が行われる。

解毒

断酒後1週間ほどは、離脱症状をやわらげるための治療(解毒という)の時期。安静を保ち、精神安定剤の投与や点滴による栄養補給が行われる。
症状が軽ければ通院で治療可能。症状がひどく危険な場合は、入院のうえ、スタッフが状態を観察できる個室や閉鎖病棟で過ごす。

合併症の治療

心身の合併症に対する検査・治療が開始される。重症でなければ、2~3週間で日常生活が可能となる。
その後は教育とグループを中心とした治療に入るとともに、慢性の合併症があれば治療が続けられる。

教育プログラム

専門治療に欠かせないプログラム。
アルコール依存症という病気や治療内容について理解し、回復に必要な知識を得る。
スタッフによる講義や、テキスト・ビデオの使用など、様々な形態で行われる。

集団精神療法

専門治療に欠かせないプログラム。
治療者のもとでグループ・ミーティングを行い、患者がそれぞれ自分の体験を話す。同じ苦しみや問題をかかえた人どうしの共感をベースに、話すこと、聴くことで、自己洞察を深める。

自助グループへの参加

長期の回復のためには断酒会やAAといた自助グループにつながることが重要。
そのためにの準備として、院内例会やAAメッセージに参加したり、地域の例会やミーティングに出かける。

抗酒剤の服用

多くの治療機関で、断酒が安定するまでの助けとして抗酒剤の服用をすすめている。

レクレーション療法

主として入院プログラム。
衰えた身体機能を回復するために、スポーツやレクレーション、ハイキングなどが行われる。

作業療法

主として入院プログラム。
陶芸・手工芸・絵画・園芸など、ものを作ったり育てる喜びを味わい、飲酒以外の活動への興味や意欲をとりもどす。

親睦会・自治会

入院治療の場合、親睦会や自治会があるのが一般的。行事の準備や運営、新しく入った患者の手助けなどを通じ、人とのつながりをとりもどす。

入院治療と通院治療の違い

従来は、入院で治療したあと、定期的な通院によるアフタージェアを受けるのが一般的でした。
最近の都市部では、通院治療を専門とするクリニックやカウンセリングによる相談室が増加し、通院で断酒を始めるケースが増えてきました。

通院で治療できる条件として、交通の便、離脱症状や合併症がひどくないこと、などがあげられます。病院でも通院のみの治療は可能です。
入院と通院のメリット、デメリットをあげておきます。

《入院治療》

メリット

〇 酒のない環境、規則正しい生活の中で、治療にとりくめる
〇 共に生活する患者どうしの連帯感がうまれやすい
〇 離脱症状やさまざな合併症にこまかく対応できる
〇 家族が疲れ切った状態から一息ついて、新しい見方ができる

デメリット

■ 退院後の生活環境との落差が大きい
■ 生活の場や仕事の場から長期間はなれなければならない


《通院治療》

メリット

〇 治療の場と生活の場との連続性が保たれる
〇 家族が患者の回復プロセスに最初からかかわれる
〇 患者にとって治療開始が受け入れやすい
〇 通院するという日々の行動が回復への意志の確認になる

デメリット

■ 治療中断のリスクが入院より高い
■ 交通の便がよくないと連日の通院が困難

Q&A

質問1

精神病院に閉じ込められるのはこわい?

回答1

現在、専門機関でのアルコール依存症の入院プログラムは開放病棟が主流です。閉鎖病棟を使用しているところも、綿密なケアを必要とする離脱期に限っていたり、病棟の出入りをほぼ自由にするなど、多くが開放に近い形態です。
いずれにしても治療は基本的に患者との契約に基づくものなので、意志に反して閉じ込められることはありません。

質問2

治療の期間は?

回答2

入院の場合は、日本では現在のところ3ヶ月が一般的である。離脱期を過ぎ、しらふで自分を見つめて断酒の基礎ができるまでの期間として設定されています。最近では、社会生活を維持している患者が増加したことにともなって、1ヶ月などの短期入院プログラムも出てきています。通院の場合は、1ヶ月半~2ヶ月程度が基本プログラム。多くの専門クリニックでは、この間は仕事をせずに毎日通院することをすすめています。

質問3

家族としては、すっかり治るまで入院していてほしいが?

回答3

アルコール依存症は慢性の病気です。入院にせよ、通院にせよ、一定の治療プログラムを終了すれば感知するというものではなく、あくまで回復の入口と考えてください。回復をすすめるためには、その後の定期的な通院や自助グループへの参加が不可欠です。家族関係の調整も大切なポイントになります。

家族は飲酒問題によって疲れ、傷ついているため、依存症者の入院によってホッとするとともに、虚脱状態に襲われたり、退院後の生活に不安を覚える場合があります。依存症者の治療と同時に、治療機関や保健所などの家族プログラムに参加して、不安や傷を癒し、今後の回復プロセスについて理解しておくことが必要です。

通院でお酒を切るときのポイント

通院治療で断酒を始める場合、離脱期を家庭で過ごすことになります。また、入院の場合もお酒を切ってから来るように言われたり、初診日や予約の都合などで、家庭で離脱症状のケアが必要になることがあります。
離脱期を安全に過ごすたのポイントは、次のようなことです。

アルコールを置かない

酒を抜く場所には、絶対にアルコール飲料を置かないこと。あったら捨てます。

絶対に一人にしない

状態を見守るため、不安を高めないために、家族や自助グループのメンバー、飲み友達以外の友人や親戚など、数人が交代で24時間の看護をうとよいです。

水分と栄養の補給

脱水状態にならないよう、ほしがる飲料をこまめに与える。スポーツドリンクなどがもっともよい。眠れないときは暖かいミルクを。連続飲酒の後はビタミンB群が不足しているため、処方されたビタミン剤はきちんと飲む。食べられないようなら、おかゆや野菜スープなどを飲ませます。

安心できる環境づくり

暗闇では幻覚などが出やすいため、明るすぎない程度のライトをつける。周囲の会話はOKだが、騒がしい音や唐突な音は避ける。高いベットは、落下の危険があるので避ける。つらさを受け止め、肩や手に触れるなどすると不安がしずまります。

危険な症状への対応

離脱症状はふつう1週間ほどで収まるが、その間に家庭では対処しにくい症状が起こる場合もある。振戦せん妄(全身の大きなふるえ・ひどい興奮や幻覚・自分が誰でどこにいるのかわからないなど)、吐血、呼吸困難、急な胸痛や腹痛、長いけいれん発作や2度の発作が起こった場合などは、すぐに専門医に連絡するか救急車を呼ぶことが必要です。

3 どんな合併症があるのか?

アルコール依存症の人に見られる主な関連疾患をあげておきます。

肝疾患

アルコール依存症で入院する人の約8割が肝疾患を合併しているといわれる。女性の場合は、男性のおよそ半分の飲酒量・飲酒期間で肝疾患になります。

① 脂肪肝
大量飲酒者によく見られる。肝細胞に脂肪がたまって肝臓が肥大したもので、無症状のことが多い。たいていの場合、断酒により治る。

② アルコール性肝炎
肝細胞が変性・壊死を起こしたもの。黄疸・肝の肥大・腹水・全身倦怠感・嘔吐などを生じる。重症になると死亡する場合もあるが、治療すれば原則として完治可能である。治療法は、断酒、安静、栄養摂取、点滴、ビタミン剤投与など。

③ 肝硬変
肝細胞の広範な壊死が起こり、肝臓としての機能を失って繊維に置き換わった状態となり、もとの状態には戻れない。食堂静脈瘤破裂・腹水・浮腫・肝性脳症など重い症状を起こしやすく、死亡率が高い。飲酒を続けた場合は、死亡率がさらに高くなる。治療法は、断酒、食事療法のほか、症状によって異なる。なお、C型肝炎の人は飲酒により急速に肝硬変になる。

胃腸疾患

① 急性胃炎
大量の飲酒により胃粘膜に浮腫、びらん、出血を生じさせた状態。上腹部痛や、吐き気、嘔吐、吐血を起こす。断酒数日後には症状がおさまります。

② 胃・十二指腸潰瘍
食後や空腹時の腹痛、潰瘍部位からの出血が見られる。ひどくなると穴があくことも。断酒と抗潰瘍剤で軽快する。アルコール依存症の人で胃を切除した人は、急速に依存症が進行します。

③ マロリー・ワイス症候群
嘔吐などによって食道下部から胃の付け根の粘膜に裂創が生じ、大量の出血をする。断酒により警戒する場合が多いです。

糖尿病

アルコール依存症者の約15%が糖尿病を合併症しているといわれるが、その背景として肝障害や慢性膵炎が考えられます。
肝臓がブドウ糖を貯える機能が低下したり、すい臓からのインスリン(ブドウ糖の貯蔵・利用に必要なホルモン)分泌が妨げられるためです。
糖尿病が進行すると、脳卒中・網膜症・白内障・心筋梗塞・腎不全・手足のしびれや筋力低下などの神経障害・肺炎などを併発しやすく、命にかかわります。早期治療が必要である。断酒したうえで、食事療法・運動療法、場合によっては薬物療法などを行います。

高血圧症

1日3合以上の飲酒者には高血圧の傾向がある。依存症者では入院時に5割以上に高血圧がみられるが、その8割が1週間以内に正常に戻る。そのため通常1週間は治療を開始せず、断酒のみで様子を見るのが原則。それでも下がらなければ降圧剤等の処方を考えます。

アルコール性心筋症

長期の大量飲酒により心臓が肥大して、不整脈、体を動かしたときの高級困難や動機、夜間の突発性呼吸困難がみられる。治療の主体は断酒です。

慢性すい炎

強烈な上腹部痛や背部痛が特徴。この痛みには鎮痛剤がきかないことが多い。すい臓は委縮し、拡張したすい管内にはすい石が見られる。糖尿病の原因となります。

神経系障害

① ウェルニッケーコルサコフ症候群
大量飲酒と低栄養に伴うビタミンB1の欠乏により起こる。眼球運動障害、歩行障害、多発神経炎などの症状のほか、周囲の状況の把握ができなくなり、記憶や学習の障害が見られる。発症早期に断酒とビタミンB1の投与をすると回復するが、治療が遅れると死亡したり、歩行障害や記憶障害が残る場合もあります。

② 視神経炎
ビタミンB群の欠乏により起こる。視野中心部に見えないところができたり、赤と緑の区別が困難となる。多くは断酒と栄養摂取、ビタミンB群の投与で回復します。

③ ペラグラ
ビタミンの一種であるニコチン酸の欠乏によって起こる。神経系のあらゆる部位が侵され、皮膚炎、せん妄を中心とする精神症状、下痢などが主な症状。治療が遅れると死亡する場合があります。治療は断酒とニコチン酸の投与など。

④ 小脳変性症
発症には栄養障害や、アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドがからむといわれる。小脳虫部が委縮し、歩行障害、眼振、言語障害などが認められます。治療は断酒とビタミンB群投与など。

⑤ アルコール性ミオパチー
急性型は、飲酒後に骨格筋の激しい痛み、脱力、筋けいれんなどが起こるもの。慢性型は、体幹に近い筋肉の萎縮と脱力が徐々に進行するもの。治療は、断酒と栄養摂取が基本。急性型は断酒後比較的にすみやかに回復します。

⑥ 抹消神経障害(多発性神経炎)
手足の末端から始まる左右対称性の知覚鈍麻、痛み、しびれ感など、進行すると運動障害をともないます。治療は、断酒と栄養摂取、ビタミン剤投与、その後は理学療法など。

⑦ アルコール性痴呆
アルコールによる大脳の萎縮がからんでいるといわれるが、発症のしくみや原因については諸説がある。記憶力や思考力などが障害され、断酒によりかなり回復するが、進行すると社会生活が困難になります。

突発性大腿骨骨頭壊死

大量飲酒者や肝障害のある人に生じやすい。大腿骨の頭、つまり股関節の「ちょうつがい」にあたる足の骨の表面がくずれ、股関節や大腿部の痛みで歩行困難となります。
根本的な治療法はなく、断酒とギブス包帯、杖の使用など。進行すると人工骨頭をつける手術が必要。

がん

毎日飲酒者は、咽頭・喉頭・食道などのがんが一般の人より高率に発生します。大量飲酒者には喫煙者が多く、双方の影響で発がんのリスクが非常に高まります。

うつ

アルコール依存症の進行とともに抑うつ傾向が生じることがよくあり、深刻な場合には自殺の背景ともなる。もともとうつ病のある人が、つらさを和らげようと飲酒することにより、かえってうつを悪化させることも多い。断酒後の離脱期にも、うつ状態がしばしば見られます。依存症の人の3割以上が、うつを経験しているという調査がある。

4 抗酒剤について

抗酒剤には液状の「シアナマイド」と粉末の「ノックピン」があります。いずれも服用している状態で飲酒すると不快な症状を引き起こす薬です。それは次のような仕組みによります。

アルコールが体内で代謝されると、悪酔いを引き起こす猛毒物質「アセトアルデヒド」ができます。
「飲める体質」の人は、ALDHという酵素の働きでアセトアルデヒドが酢酸に分解されますが、「飲めない体質」の人はこの分解がスムーズにいきません。

抗酒剤はALDHの働きを一時的に止めることで、飲めない体質の人と同じような状態を作り出します。飲酒すると、頭痛や息苦しさ、動悸・倦怠感など不快な症状が起こります。

時には血圧低下や不整脈で危険な状態になることもあるため、抗酒剤を飲んでいて飲酒してしまった場合は、医師の診察を受けることが必要です。

抗酒剤を「酒をきらいになる薬」と考えている人がいますが、これは誤解です。かつて、抗酒剤を服用の上で飲酒させることを繰り返し、酒をきらいにさせようという「嫌悪療法」が試みられましたが、成功しませんでした。

現在では、あくまで自分の意志による断酒と回復を手助けするものとして使われています。

断酒の初期には、毎日抗酒剤を飲むことで、「今日は酒を飲まない」という決意を確認することができます。万一飲酒してしまっても、不快な症状のため連続飲酒に至る可能性が少なくなります。

また、抗酒剤を飲みたくないと感じたときは心の奥で飲酒への欲求が生まれている可能性があり、自分の状態に注意するためにも役立ちます。

抗酒剤を使用しない方針の医療機関もありますが、多くの病院やクリニックでは服用をすすめています。強制とは考えず、積極的に活かすことが重要です。

Q&A

質問

抗酒剤の副作用はありませんか?

回答

どんな薬にも副作用はあります。副作用より薬効を優先したい場合に、薬を服用するのです。抗酒剤の副作用としては、湿疹や時に発熱・頭痛・不眠・嘔吐などがあげられます。

医療機関ではこうした副作用の有無観察するうえで投与が行われますが、実際に副作用のため使用中止い至るケースはさほどありません。

シアナマイドとノックピンのうち、一方が体質的に合わずに副作用が出るようなら他方にきりかえるということも行われています。なお、シアナマイドの方が作用がマイルドな分、副作用も一般に少ないため、広く使われています。

5 家族プログラムとACプログラム

ほとんどの専門治療機関では、家族の個別相談に応じているほか、「家族教室」「家族ミーティング」などのグループや、家族カウンセリング、夫婦カウンセリングなど家族のためのプログラムがあります。依存症の人が治療に結びすく前でも、家族がプログラムに参加することができます。

かつては家族を「治療の協力者」として教育する姿勢が強かったのですが、現在では疲れ傷ついた家族の回復に重点を置くところが増えています。そこで、家族のグループは次の2つの機能をはたすようになっています。

① 正しい知識を得る

アルコール依存症という病気の構造を理解し、有効な対応を学ぶ。家族が病気に巻き込まれるしくみや、傷つき疲れた自分の状態を理解する。自分や相手を責めることをやめ、家族全体の回復について考える。

② 共感とサポートを得る

同じ立場の家族が集まり、共感の中で体験や思いを語ることで、傷ついた状態から癒される。依存症者ではなく自分自身に注目し、自分のニーズに気づき、自分自身の人生をとりもどす糸口をつかむ。

AC(アダルト・チャイルド=依存症の親のもとで育った人。すでに成人している人をさす。)や、依存症者の子どもたちのためのプログラムも、多くの治療機関で始まっています。ACの治療グループ、個人カウンセリング、自助グループの紹介などです。

ACとしての回復は、緊張した家族関係の中で生き延びてきた子ども時代の自分をふりかえり、今の自分がかかえている生きにくさとのつながりを考え、精一杯やってきた自分を肯定しつつ自分をしばってきたものから解放されていくプロセスをたどります。

多くの地域で、こうした回復をともにする場である自助グループができ、アルコール依存症以外の機能不全家族で育った人を含めて参加者が増えています。

Ⅲ 回復のために必要なもの

治療を受けた後の回復はどのように進むのか。また回復のため、何がどう役立つのか。再飲酒にどう対処したらよいのか。

1 回復はプロセスあせらずに

依存症の進行と回復のプロセスは次のとおりです。どん底までいかないと回復が始まらないのではなく、早い段階で気づくほど、失うものも少なくて済みます。回復は、どこかで完結するものではなく、日々継続する「プロセス」で、病気の進行とともに失ったものを、徐々に取り戻していくのです。

付き合いで時々飲む

ほとんど毎日飲む
酒量が増加する
酒がないと物足りない
家族の忠告を無視する

   

隠れて飲む・嘘をつく
軽い離脱症状が始まる
酒が原因のケガや病気
酒量をコントロールできない

   

内科に入退院を繰り返す

   

連続飲酒が始める
さまざまな離脱症状が出現
飲むこと以外考えられない

   

すぐ酔いつぶれる(耐性の低下)

  

どうにもならなくなる・・・・・・・・

人生をありのまま楽しむ

   

酒なしで心から楽しめる

   

困難にも現実的に対処する

   

自分への信頼や、生きるエネルギーをとりもどす

   

生活の幅が広がり、人と人のつながりをとりもどす

   

心身の健康を考えた生活

(再飲酒)

不安、イライラ、怒り、落ち込み

   

離脱がおさまり体が楽になる

   

断酒、離脱症状の出現

2 回復のための社会資源

依存症からの回復は、一人では困難。助けになるものを積極的に利用することです。

専門医療機関のアフターケア

定期的な通院は欠かせない。心身の状態をチェックし、家族関係を含め必要なサポートを得ることができる。
必要に応じ、抗酒剤を処方してもらうことができる。

自助グループ

同じ仲間が集まる自助グループに参加することは、回復を続けていくために最も有効な方法である。なぜ自助グループが役立つのか、どう役立つのかについては、「3 自助グループはなぜ「きく」のか?」を参照。

リハビリ施設

2007年のASKのデータでは、全国にアルコール・薬物依存症のリハビリ施設や作業所は90。その後も増え続けている。
主として回復者によって運営され、施設により通所プログラムと入所プログラムがある。
入所の場合、多くは生活保護の適用が可能。

生活保護

場合によっては断酒後の一定期間、生活保護を受けて回復に専念することができる。

専門医療機関のデイケア

仕事をもたない人などが昼間の時間帯を飲まずに有効に過ごすため、病院やクリニックでデイケアのプログラムをもつところが増えている。ほとんどが保険適用。

Q&A

質問1

抗酒剤はいつまで飲み続けることが必要?

回答1

人によって異なるため、主治医と相談して決めてください。断酒開始後、半年から1年の服用が一般的です。服用をやめる目安は、
① その人にとって「酒のない生活」が当たり前になること。
② 自助グループなどで飲まない仲間との人間関係ができること。

回復の状況を主治医と相談の上決めてください。定期的な服用を止めた後も、出張のときや酒席に出なければならないとき、自助グループに参加できないときなど、必要に応じ使用する人もいます。

質問2

睡眠薬や抗不安薬(精神安定剤)は?

回答2

離脱の時期には、症状を和らげるため、こうした薬を使います。その後も不眠やうつ状態などに対応するため状況に応じて処方されますが、断酒後1ヶ月ヶほどで切っていくのが理想です。

現在使用されている睡眠薬や抗不安薬などのいわゆるマイナー・トランキライザーは、作用に改良がかさねられ依存のリスクが低くなったと言われていますが、依存の可能性は否定できません。

入院の場合は管理された環境にあるため乱用に至るケースはごく少ないですが、通院での処方は一度に服用するリスクを避けるため、数日分にかぎるのが原則です。また、長期にわたって同じ処方を続けるのではなく、状態をこまめに観察したうえで徐々に薬物なしで過ごせるようにしていきます。

順調な回復プロセスのためには、しらふで自分を見つめたり、困難に直面していくことが重要です。場合によっては、不眠などが続く状態で再飲酒を予防したり、うつなどの合併症のためやむを得ず薬物を必要とすることがありますが、自己判断で内科や精神科などを回るのではなく、アルコール専門医と相談のうえ処方を受けることが必要です。

3 自助グループはなぜ「きく」のか?

回復のためには、自助グループがんもっとも有効で、欠かせない助けとなります。これは過去の回復者たちの経験と実感で裏付けられてきたことです。理屈より先に足を運んでみることが重要ですが、何がどう役立つのかを整理すると次のようになります。

指摘されたり責められることなく、共感が得られる。

依存症者は今まで、「あなたは〇〇だ」と周囲から指摘されたり責められる体験を重なて来た。自助グループの場では、どの人も「私は・・・」と自分のことを語り、何を話しても指摘や避難を受けることはない。その共感の中で自分をさらけだせる。

仲間の存在が、孤独を癒す。

自分と同じ体験や苦しみを味わった仲間がいることで、傷ついた心がほぐれていく。

回復している仲間から、自身と勇気を得る。

回復を信じ、希望をもち、回復のプロセスを身近に実感することができる。

仲間とのつきあいで、対人関係能力を育てる。

自助グループは、社会での人間関係をつくりなおすための練習の場となる。

仲間を通して自分を見つめる。

仲間の体験に、忘れていたり気づかなかった自分の姿を見出すことができる。

参加することで、飲まない時間を過ごせる。

特に断酒初期には、毎日の生活パターンをつくるために自助グループが役立つ。

自分の体験を伝えることが、苦しんでいる人の役に立つ。

依存症で苦しんでいる人に体験を伝えることは、自助グループの欠かせない活動のひとつ。自らの体験が他の人の役に立つことで、力と勇気が得られる。

Q&A

質問1

自助グループに行かずに断酒している人もいるのでは?

回答1

確かにいます。けれどもそれは、いわば自転車で日本を縦断するようなもの。成功する人はいても、長距離旅行の手段としてすすめられるものではありません。

自助グループは今のところ最も有効と立証されている回復の手段です。自助グループに参加を続けている人はそうでない人より、5年後の断酒率がずっと高い、という調査もあります。

アルコール依存症は、一筋縄ではいかない病気です。専門の医療機関でも、5年後の予後は死亡が4割、飲んだり止めたりしている人が3割、断酒して回復を続けている人は3割といったところ。回復に役立つものは、何でも活かしていくことが必要です。

質問2

自助グループに一生通い続けないとダメ?

回答2

一生同じペースで通い続ける必要はありません。初期には、毎日のように通うのが理想ですが、回復が進むにつれ、生活の幅も広がって自助グループの比重は減っていくのが自然です。一方で、自助グループ運営のための役割分担を引き受けていくこともあります。そのときどきの回復プロセスにふさわしい自助グループとのかかわり方があり、「卒業」はありません。

メモ

グループ・ダイナミクスとは:一人一人では得られない変化が、グループ全体の相互作用によって引き起こされること。自助グループが有効なのは、仲間としての共感や支えあいが「指導」「治療」「援助」にまさる力を与えるためである。

4 回復のプロセス

アルコール依存症からの回復は、平坦なものではありません。その時期により直面する困難があり、乗り越えなければならない課題があり、それを容易にするために有効な手段があります。

回復プロセスは様々な区分の仕方がありますが、ここでは特に自助グループとの関係に注目しながら、4つの時期に分けて説明します。年数はまで目安であり、断酒してからの年数が長いからといってプロセスがそれだけ進んでいるとは限りません。回復の指標となるのは、健康な人間関係や生き方のバランスです。

① 移行期(専門治療の開始)

飲酒による失敗を繰り返したり、周囲からの介入を受けることで、自分自身の問題に直面したところから回復プロセスは始まる。人によっては曲折を経ながら、専門医療や自助グループと出会うまでの時期。新しい人生を始めた「あかちゃん」に例えらえる。

課題

■ 自分自身の問題に直面する
■ 酒に対する敗北を認める
■ 助けを求める
■ 「私はアル中ではない」という否認を乗り越える

役立つ援助

■ 治療導入への介入(インタベンション)
■ 1対1のカウンセリング

自助グループとの関係

■ 生まれたてのあかちゃんと、親の関係
(心から祝福されて迎えられる)
(出会ったばかりで何もかわらず、全面的に信じるしかない)

② 回復期(断酒後1年ぐらいまで)

酒はやめたものの、1年位はうつ状態・不眠・イライラなどが続きやすい。辛さから飲酒欲求に襲われたり、その一方で「これだけ止められたのだから」と自信過剰になったりと不安定な時期。よちよち歩きの状態である。

課題

■ 「酒ぐらい一人でやめれる」という否認を乗り越える
■ 薬なしでうつ状態や不眠を乗り切れるようにする
■ 仲間とのつながりを作っていく
■ 飲まない生活のパターンを作っていく

役立つ援助

■ 集団精神療法(グループセラピー)などの治療プログラム
■ 初期治療の終了後も、定期的な通院
■ リハビリ施設のプログラム
■ 生活技術のトレーニングや職業訓練

自助グループとの関係

■ 幼児~児童と、親との関係
(まだ一人歩きはできない。毎日のように自助グループに通うことが望ましい)

Q&A

質問

早く仕事の遅れを取り戻して信用を回復したい・・・。

回答

仕事を再開する時期は、主治医と相談のうえで決めましょう。断酒を開始した当初はストレスへの耐性が弱く、身体的にも不眠が続いたり疲れやすい状態です。あせって無理をすると辛くなり、飲んで楽になりたい欲求に襲われます。

回復のことを第一に考えるのが原則です。自助グループへの参加や通院に差し支えない範囲で仕事をするか、人によっては、しばらく仕事を休んで回復に専念するほうが良い場合もあります。長い目で見れば、あせらず進むことが信用をとりもどす近道なのです。

③ 回復中期(断酒後3~5年ぐらい)

断酒が軌道に乗り、生活の幅も広がってくる。それと同時に、家族や周囲の人間関係のトラブルに直面することも多い。自助グループの仲間に対しても批判が芽生えることがある。再飲酒の危機に襲われることもある。まさに揺れ動く思春期である。

課題

■ 人間関係などをめぐるストレスを飲まずに乗り切る
■ 家族関係やその他の人間関係を立て直す
■ しらふのライフスタイルを確立する
■ 家庭生活、仕事、余暇などの生活バランスを整える
■ 自助グループでの役割をはたす
■ 新しい人間関係を作っていく

役立つ援助

■ 必要に応じた通院
■ 家族カウンセリング・夫婦カウンセリング
■ 自己表現のトレーニング(アサーティブ・トレーニングなど)
■ リラクゼーションやエクササイズ
■ 親業訓練など

自助グループとの関係

■ 思春期~成年期の人と、親との関係
(親に見守られながら、それ以外の関係を作っていく中で成長し、だんだんと自立していく)

Q&A

質問

家族が「もっともっと」と期待するのはよくないこと?

回答

家族や周囲の人は、断酒の安定にともなって「もっとこうあってほしい」と期待をふくらませます。もっとしっかりしてほしい、もっと仕事をしてほしい、もっと家族の気持ちを考えてほしい・・・期待は、依存症者も現実より先行することが多いものです。

期待するのは、家族としてごく自然な感情です。その「期待」と、「現実として今、要求できること」を、分けて考えればよいのです。一度にたくさんの要求をすると、依存症者はあせって転倒しやすく、家族は失望がつのります。

④ 発展期(断酒後3~5年後)

周囲の人間関係はほぼ修復され、ゆとりある生活が始まる。人によっては、職場で認められない、社会的に評価されないなど、自分の存在価値をめぐる悩みが残っている。またAC「Adult Children Of Alcoholic(アルコール依存症の親のもとで育ち、すでに成人している人)」としての課題にとりくむ人も多い。自分自身の生き方や価値観を見出し、成熟へと向かう時期である。

課題

■ 余裕をもって自分を受け入れ、他人を受け入れる
■ 人生の変化を受け入れる
■ 子ども時代の親との関係を整理し、ACとして癒されていく
■ 新しい価値を見出す

役立つ援助

■ グリーフワーク
■ ACグループ
■ その他のカウンセリング

自助グループとの関係

■ 成人と親との関係
(親の面倒をみる場合もあれば、独立して暮らす場合もあるのと同じで、関係の持ち方は人それぞれ。親子の関係が一生続くのと同様、仲間としての関係が切れることはない)

Q&A

質問

別れた家族を思う気持ちの整理がつかない。

回答

断酒を続けても、取り戻せないものがあることを受け入れるのはつらいものです。その悲しみが、後悔や自責感や相手への恨みという形になって心理的な混乱を起こします。しらふの生活に余裕ができたら、過去の喪失から癒される作業(グリーフワーク)に取り組むべき時期です。

そうすることで、自分や相手をを傷つける感情や行動をやめ、肯定的な生き方を始めることができます。それが回復を確かなものにしてくれるのです。

大切なのは、「今の自分にできることをやっていく」ことです。別れた家族に直接埋め合わせをしようと焦ったり、過剰な負担を自分に強いるべきではありません。

今日飲まずにいること、仲間の中で自分を正直に語ること、別れた家族の幸せを祈ること・・・。状況によっては、子どもの名義で積み立てをするなど、相手に負担をかけない方法で埋め合わせをしていくこともできます。

5 再飲酒への対応

再飲酒(スリップ)は「失敗」ではありません。アルコール依存症は慢性の病気ですから再び飲んでしまう可能性は常にあります。例え最初はントロールして飲めたように感じても、やがては必ずもとの飲み方に戻ります。そのまま病気が進行するか、危険に気づいて回復のプロセスへと戻っていくかの別れ道・・・。

なぜ再飲酒が起こったのかを考え、次の回復へのステップとすることが重要です。

再飲酒の背景

回復のプロセスごとに、様々な背景で再飲酒が起こります。

step
1
「自分はやはりアル中ではないのでは・・・」


「移行期」に起こりやすい。上手く飲もうと試行錯誤しながら、結局はできずに病気を受け入れるステップとなる。

step
2
「酒ぐらい一人でもやめられる」


「回復初期」に起こりやすい。再飲酒の」体験を通じて、専門家や仲間の助けを求めるためのステップとなる。

step
3
イライラ・孤独・疲労・不眠・うつ状態


「回復初期」に起こりやすい。しらふで心身の不調を乗り越える方法を学ぶステップとなる。

step
4
「今度こそ上手に飲めるのでは?」


断酒後三ヶ月、六ヵ月、1年といった節目に起こりやすい。慢性の病気であることを納得するステップとなる。

step
5
酒をやめているのに、上手くいかない


「回復中期」に起こりやすい。家庭内のトラブル・先行きの不安やあせり・仕事上のストレス・対人関係のストレスなどが原因。家族関係を建て直したり、生活のバランスや自分の人間関係を見直すためのステップとなる。

step
6
生き甲斐を失った


断酒が長く続いても、家族の死や子どもの巣立ちによる役割の喪失など、人生上の大きな変化によって再飲酒が起こる場合がある。断酒の意味や自分の生き方を見直すステップになる。

《本人》飲酒した事実を素直に認める

再飲酒した人が回復を続けるためには、飲んだ事実やその時の自分の感情を、正直に見つめることが必要です。飲んだことによって、これまでの回復がムダになったわけでもなく、自分の価値が否定されたわけではありません。依存症という病気であることが確認できただけです。

自分の回復プロセスを見直し、目の前にある課題に取り組んでください。どのプロセスにある人にも共通する課題は、
① 自分の中にある「否認」を解くこと(アル中ではない・一人でも止められる・酒さえ止めれば自分には何の問題もない・酒で失ったものを惜しんではいない、など)
② 生活のバランスを見直すこと、です。

《家族》依存症者を責めない、自分を責めない

「なぜ飲んだのか」と責めるのは有効ではありません。指摘しなくても、依存症者は自分で問題を感じたり、飲んだ自分を責めています。その苦しみを受け止めながら、心配していることを伝え、治療者や自助グループに連絡をとるようにすすめます。

家庭内のトラブルがきっかけとなって飲酒する場合もありますが、「飲んだのは家族のせいでは」と自責感を感じたり「努力がたりなかった」と恥じる必要はありません。再飲酒は家族のせいではなく、病気のせいです。けれども今後の回復のために、再飲酒をきっかけにして家族関係を建て直していくことは重要です。そのためには家族自身が回復し癒されていく必要があるのです。

Q&A

質問1

飲んでしまったことを病院に知らせたくない・・・。

回答1

治療・援助者が事実を知っておくことが、今後の治療・援助のためには不可欠です。必ず知らせてください。再飲酒は恥ずかしいことではありません。
本人に内緒で家族が知らせるのはあまりよくありません。「あなたのことが心配なので病院に電話して相談しようと思います。それとも自分で電話しますか?」というように、話してみてください。

質問2

恥ずかしいので、自助グループの敷居が高い・・・。

回答2

こうした気持ちにとらわれる人は多いのですが、勇気をもって出かけてください。あなたの回復のためだけでなく、再飲酒の体験をありのまま語ることが、仲間のために役立つのです。自助グループでは、再飲酒してもけっして責めないこと、ふたたび回復しようとやってきた人を暖かく迎えることが原則です。

メモ

「再発」と「再飲酒」:「再飲酒」という行動だけが問題なのではなく、「再発」のプロセスの中で再飲酒が起こるのである。プロセスのどこかで危険に気づけば、飲酒に至らず引き返すことができる。そのためには勇気をもって助けを求め、正直に語ること。
飲んでいないが再発している状態を、「ドライ・ドランク」とも言う。下のモデルに見られるように、行動パターンが飲酒していたことに戻っていることをさす。

再発プロセスのモデル

1 自分の不安を否定する
2 回復を過信する
3 強迫的に行動する(仕事・ギャンブル・異性関係など)
4 周囲から孤立し始める
5 軽度のうち状態
6 非現実的で思いつきの計画を立てる
7 自分自身を過度に分析してみる
8 友人や家族にイライラを感じる
9 すぐに腹を立てる
10 自分の問題を周囲のせいにする

11 不規則な生活で疲労をためる
12 自助グループ参加が不規則になる
13 心が苦痛と混乱であふれる
14 飲酒すれば楽になれる、飲んでも今より悪くなることはないと思う
15 飲酒について幻想を抱く
16 飲む準備のためウソをつき始める
17 自助グループに参加しなくなる
18 飲み友達に会う、飲む場所に行く
19 コントロールして飲み始める
20 コントロールを失う

6 家族にとっての回復

「依存症者が酒を止めれば何もかもよくなる」と思っている家族は多いものです。けれども現実にはそうはいきません。本人の長い回復プロセスとともに、家族自身も回復を必要としています。

Q&A

質問1

断酒してから、家族がかえって辛く感じるのはなぜ?

回答1

依存症者が断酒すると、家族は肩の荷がおりてホッとするだけでなく、これまでの疲れや心の痛みに急に襲われることがあります。無感覚でいた状態から、自分の「痛み」を感じられるようになったというのも、回復のプロセスです。

また、断酒した依存症者が周囲から励まされたり称賛される一方で、家族はこうした周囲のサポートを受けることが比較的少なく、むしろ「これで安心」と放り出されてしまったり、断酒への感謝や協力を要求されることが多いため、自分のつらさと周囲の態度とのギャップに苦しむこともあります。

さらに、断酒初期の依存症者は、イライラしたり、怒ったり、落ち込んだりなど、感情が不安定です。しらふになって周囲のあらも目につき、家族への要求も増えます。

けれども、全てはプロセス。依存症者の回復はもちろん、家族自身が癒されて自分の人生を生きるようになることで、つらさは薄らいでいくものです。

質問2

過去に傷つけられた思いが解消できない・・・。

回答2

自助グループや家族のミーティングなど、仲間のもとでその思いを分かち合ってください。直接本人にぶつけなくても、感情を整理し癒されていくことは可能です。必要ならばカウンセリングなど、専門家の助けを求めて下さい。

家族間で傷ついた感情をぶつけあうと、傷を一層深くしてしまう場合があります。お互いの思いを受け止められるようになるには、時間と癒しが必要です。

「家族としての回復」には、2つの意味があります。

1 共依存からの回復
(一人一人の回復)

相手を引きずり回されたり、相手をひきずり回す生き方をやめて、自分自身を取り戻す。自分自身を発見する。これには「飲んだいるのではと疑って匂いを嗅ぐ」といった断酒後のイネイブリングを止めることも含まれる。人によっては、共依存からの回復のために「AC」としての癒しにとりくむ必要がある。

2 自立した関係の再構築
(システムとしての回復)

飲酒問題のためにはいったんはバラバラになった家族が、家族として、あるいは夫婦として、親子として、「どうつながるのか」を考えていく。家族でいることの意味、お互いの責任や目標を分かち合うことなどを、自立した関係の中で模索していく。

家族関係の再構築に向けてのアドバイスをあげておきます。これは依存症者の回復、家族一人一人の回復と重なり合いながら、進んでいくものです。

それぞれの責任を返していく

これまで、一部の家族が責任を一手に背負ってきた。本来の依存症者の責任は、少しずつ依存症者に返していく。家族全員が家庭内の役割を分かち合う。

言葉の信頼性をとりもどす

互いをコントロールしたり、されたりするのをやめ、率直で誠実なコミュニケーションを始める。

癒される場を求める

自助グループ、治療の場など、それぞれが安心できる場で心の傷を癒していく。

生活を楽しむ

それぞれが自分のための時間をもつ。ともに楽しむ時間をもち。

自分の人生を生きる

誰かのためにい生きるのではなく、自分を磨き、自分自身の人生を生きる。

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